TRAP×GIRL【完結】




リビングに足を踏み入れた一花は、その異様な光景に眉をひそめた。

 そこは驚くほど生活感が乏しく、ガランとした空虚な空間だった。遮光カーテンの隙間から細く差し込む昼の光が、宙に舞う埃を白く照らし出している。

 整然としすぎた室内を検分するように歩く一花は、ローテーブルの端に置かれた一つのフォトフレームに目を留めた。飾られていたのは、幼い頃の朔也と母親の二人だけが写った写真。

(パパが写っている写真がない……。一体、どこにあるの……)

 不倫相手の家なら、パパとの痕跡がどこかに残されているはず。一花は辺りを執拗に詮索したが、いくら探しても父親の面影は見当たらなかった。

 リビングでの収穫を得られぬまま、一花は次に、廊下の奥で最も不気味な気配を放っていたもう一つの部屋へと足を運んだ。

 ギギッ――。

 何年も油を差されていないような、重く嫌な扉の音が静寂に響く。
 一花はその部屋に一歩踏み入れた瞬間、驚愕のあまり目を見開いて固まった。

 窓枠には何重もの蜘蛛の巣が張られ、空気はカビと埃の臭いで満ちている。何年も掃除をされていないのは明らかだった。床には何十冊もの本が乱雑に撒き散らされており、一花が歩を進めると、足先が一冊の古びたアルバムに当たった。

 一花は床に膝をつき、ゆっくりとアルバムのページをめくっていく。
 そこにあるのは、他愛もない親子の日常写真ばかりだった。しかし、ページの最後の裏表紙に、不自然に隠されるようにして挟まれていた一枚の古びた写真に、一花の息が止まる。

 そこには、一花の父親と、朔也の母親が写っていた。

 大学時代のものだろうか。まだ若い二人は、きらめく噴水の前で、親密そうに肩を並べて心からの笑顔を浮かべている。

(不倫だけじゃない……。この二人、もっと前から……?)

 激しい動揺のなか、一花は震える指先でその写真を奪い取るように握りしめた。怒りと混乱のままに写真をくしゃりと掴み、制服のポケットへと押し込む。

 立ち上がろうとしたその時、一花の視線が、埃をかぶった木製のサイドテーブルの上へと吸い寄せられた。
 そこには、一通のシワシワになった薬の袋がぽつんと取り残されていた。

 一花は吸い寄せられるようにその袋を取り、凝視する。色褪せた紙袋の表面には、手書きのボールペン文字で、こう記されていた。

――“安斎病院”

 ドクン、と心臓が頭を殴りつけるような衝撃を放った。
 一花は目を見開いたまま、指先ひとつ動かせなくなった。安斎病院。それは、精神科とホスピスを併設する病院の名前だった。なぜ、朔也の母親の部屋にその袋があるのか。

 閉ざされた過去の扉の奥から、さらなる歪な真実が首をもたげ、一花を深い混沌の闇へと引きずり込もうとしていた。