一花の父親の小説をびっしりと並べた棚。そこからどうにか視線を逸らすため、一花は棚の隅にある無難な一冊に目を留めた。それは大きな卒業アルバムだった。
「せっかくだし、定番の! 朔也くんの卒アルが見たいなー」
一花は悪戯っぽく、可愛くおねだりしてみせる。朔也は少し意外そうな顔を浮かべたが、すぐに「卒アル? いいけど、本当に大した写真なんて載ってないよ?」と苦笑しながら棚からアルバムを取り出し、一花に見せるように机の上でページを広げた。
クラスの集合写真のページ。一花は指先でなぞりながら朔也の姿を探した。
「あ、あった! 中学のときの朔也くん、なんだか少し幼くて可愛いね」
一花が声を弾ませると、朔也は顔を少し赤くして「はは、そうかな」と照れくさそうに笑った。
しかし次の瞬間、朔也の映る写真のすぐ斜め上の人物に、一花は目を奪われた。
――碓氷馨が、そこに映っていたのだ。
一花は瞬時に当たり障りのない笑顔を作り、何気ないトーンで尋ねる。
「え、碓氷くんも映ってる! 二人って同じ中学だったんだ?」
「ん、あぁ。馨はね、中学の途中から転校してきたんだよ」
朔也はアルバムを見つめながら、懐かしむように静かに答えた。
「親が離婚したかなんかで、こっちの学区に移ってきたみたいだけど。それからかな、あいつと仲良くなったのは」
一花は内なる衝撃に胸を突かれた。あの傲慢で不敵な碓氷馨も、自分と同じように家庭の崩壊を経験した母子家庭の育ちだったのだ。一花は少し気まずそうに視線を落としながら、「……そうなんだ。大変だったんだね」と呟いた。
「まぁ、あいつはあんな性格だし、本人は気にする様子なんて全くないよ。今だって女の子には全然困ってなさそうだしね」
朔也が冗談めかして笑う。その「女の子に困っていない」という言葉を聞いた瞬間、一花の胸の奥がずきりと不快に痛んだ。遊園地で、あの暗い鏡の中、自分に縋ってきた切ない瞳が脳裏をよぎる。しかし一花はその感情に気づかないふりをして、無理やり乾いた笑みを浮かべた。
「……ふふ、それもそうだね」
過去の共有によって生まれた奇妙な動揺を、一花は必死に頭の中から振り払う。今は目の前の復讐に集中しなければならない。
「じゃあさ、何か映画でも観る?」
朔也がそう言ってリモコンを操作し、部屋のテレビに映画を流し始めた。
それからしばらくして、薄暗くなった部屋の中、ソファーで朔也とぴったり並んで座っていた一花に、ついに待ち望んでいた「絶好の機会」が訪れた。



