あの息の詰まるような遊園地でのダブルデートが幕を閉じてから、数日が経った。
あれから、朔也の様子に変わったところは特になかった。あの夜に見た、背筋が凍るような闇に染まった笑顔はまるで幻だったかのように、彼は相変わらず一花へいつも通りの優しい笑顔を向けていた。
けれど、一花の復讐の炎が消えることはない。
ついにその日がやってきた。一花は今、朔也が暮らす高級マンションの重厚なエントランスの前に立っていた。
かつて彼女の家庭を崩壊させた、あの不倫事件。あの後、彼らは引っ越しを余儀なくされたのだろう。一花が覚えている、五歳のときに訪れたあの忌々しい一軒家はすでに消え去り、現代的なコンクリートの塊へと姿を変えていた。
今日の目的はただ一つ。朔也の母親の情報をすべて暴き出し、父を奪った報いを受けさせること。
一花はこの日のために、冷徹に準備を重ねてきた。
家を出る前、一花は完全に光の消えた虚ろな瞳で、自分の鞄を見つめていた。そのサイドポケットには、病院で手に入れた錠剤が静かに忍ばせてある。彼を眠らせるためか、あるいは――。躊躇なく薬を仕込み、朔也に「今から行くね」とメッセージを送ってから、彼女はここへ向かったのだ。
深く息を吸い込み、一花は「柊一花」の可憐な仮面を顔に貼り付けた。
細い指先が、インターホンのボタンを静かに押し込む。
ピンポーン――。
静寂を破る電子音が室内に響き渡る。一花の心臓がドクドクと激しく脈打ち、鞄の中の錠剤が妙に重く感じられた。
間もなくして、ガチャリと内側から鍵の開く重い音がした。ゆっくりと開いた扉の隙間から、朔也が顔を覗かせる。
「いらっしゃい、一花。待ってたよ」
彼は少し目元を緩め、いつも通りの、あの屈託のない優しい笑顔を浮かべて一花を迎え入れた。その無防備な姿に、一花の胸の奥で黒い歓喜が鎌をもたげる。
「お邪魔します、朔也くん」
一花ははにかむような笑顔を返し、ゆっくりと、獲物の巣穴へと足を踏み入れた。引き返せない復讐のカウントダウンが、静かに始まりを告げていた。
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