賑やかな昼の喧騒が引き、遊園地は色鮮やかなネオンがまたたく夜の世界へと姿を変えていた。
「一花、ごめんね! 私、どうしても夜のパレードが観たくて……っ。馨くん、行こう!」
空麗はそう言うと、馨の腕を引っ張って光の渦が広がる大通りへと走っていった。遠ざかる二人の背中を見送りながら、一花は胸の内で複雑な感情の衝突を感じていた。
これでようやく、あの天敵の執拗な視線から解放される。そうほっとしている自分がいる一方で、なぜか胸の奥がざわつき、もやもやとした不快な感情が消えずに燻っている。そんな自分への苛立ちも混ざり合い、一花はなんとも言えない複雑な表情を浮かべるしかなかった。
そんな彼女の横顔を、朔也が静かに見つめていた。
「じゃあ、一花。俺たちはあっちの観覧車にでも乗ろっか」
彼はいつもの優しい笑顔で、夜空に大きく光の輪を描く観覧車を指差した。一花はとっさに思考を切り替え、満面の笑みを貼り付ける。
「うん! いいね、乗りたい……!」
一花は甘えるように、朔也の腕に自分の腕をぎゅっと絡めた。その感触に朔也の表情が和らぐ。
ゆっくりと上昇を始めたゴンドラの中は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。一花はガラス窓に額を近づけ、眼下に広がる宝石を散りばめたような夜景を見つめた。そして、真向かいの席に座る朔也へ、極上の微笑みを向ける。
「すっごく綺麗……! 今日は連れてきてくれてありがとう、朔也くん」
可憐に微笑む一花。けれど、その脳裏には、またしても別の影がよぎっていた。
(今頃、空麗と碓氷馨はどうしているだろうか……)
――ハッとして、一花は心の中で激しく首を振った。
(ダメダメ、集中しなきゃ……。私の狙いは朔也くんなんだから)
自分自身を叱咤し、目の前の復讐の標的に意識を戻そうとした、その時だった。
ガタ、と微かにゴンドラが揺れた。
一花が反射的に振り返ると、真向かいにいたはずの朔也が席を立ち、一花のすぐ隣へとゆっくり腰を下ろしたところだった。
「あ……」
一花は一瞬、その予期せぬ接近に目を見開いて驚いた。しかし、すぐに「大好きな彼氏に近づかれて喜ぶ少女」を演じるため、嬉しそうにはにかんで微笑んでみせる。
だが、朔也は何も言わなかった。
いつもの穏やかな笑顔は完全に消え失せ、底の知れない暗い瞳で、じっと一花の顔を見つめている。その視線の冷たさに一花が息をのんだ瞬間、朔也の長い腕が伸び、彼女の身体を強く、ゆっくりと抱きしめた。
「……朔也くん?」
一花は朔也の胸に顔を埋められたまま、不思議そうに、彼の名前を呼んだ。夜空の星が輝く、密室となったゴンドラの中で、朔也の強すぎる抱擁が一花の身体をじわじわと締め付けていく。



