TRAP×GIRL【完結】


白いパラソルの下、一花と空麗は並んで腰掛けていた。朔也と馨が飲み物を調達しに列を離れたため、今は女子二人きりの空間だ。空麗は少し心配そうに一花の顔を覗き込んだ。

「一花、大丈夫? 鏡の迷路から出てきたとき、なんだか顔色悪かったし……何かあった?」

 その純粋な気遣いに、一花は慌てて引きつる頬を動かし、いつもの笑顔を作った。

「ううん、大丈夫だよ。久しぶりの遊園地が広くて、ちょっと疲れちゃっただけ。心配かけてごめんね」

「そっか! ならよかった。じゃあ、とりあえず二人を待ってよっか」

 空麗は安心したように笑って背もたれに身を預けた。ジリジリと照りつける夏の容赦ない日差しが、パラソルの境界線を越えて、二人の足元を白く焼き焦がしている。

 その頃、喧騒から少し離れた自動販売機の前で、朔也と馨はジュースを選んでいた。ガコン、と鈍い音が響き、朔也の購入した缶ジュースが取り出し口に落ちる。
それを拾い上げた朔也の横で、馨は自販機の見本を眺めながら、気だるげに髪を弄っていた。

「んー、どれにしようかなぁ。カルピスもいいけど、炭酸も捨てがたいし……」

 なかなか決まらない様子の馨を見て、朔也は買ったばかりの冷たい缶を見つめながら、ぽつりと言った。

「馨はいつも、一つに絞れないよね」

 冗談めかした、いつもの軽い笑い声。馨は自販機のメニューから目を離さないまま、「んー? そうだね」と、どこか他人事のような生返事を返す。

 朔也は缶ジュースのプルタブを引き開け、ごくりと喉を鳴らして一口飲んだ。そして、口元を手の甲で乱暴に拭うと、冷え切った声で言葉を続けた。

「……一花のことも、そうなの?」

 馨の指先が、ぴたりと止まった。
 わずかに瞳を揺らし、驚いたように目を見開いた馨が、ゆっくりと首を巡らせて朔也を見る。
しかし、馨はすぐにいつもの不敵な笑みを顔に張り付けた。

「ん? 何の話、朔也くん」

 朔也は、その大きな瞳の奥に何を考えているのか分からない暗い光を宿したまま、馨をじっと見つめ返した。

「いや、迷路から出てきたときの一花、なんだかいつもと違ったから。馨と何かあったのかなって……気になっただけだよ」

 そう言って、朔也はふっと軽く笑ってみせる。
その笑顔には、いつもの底抜けのお人好しさはどこにもなかった。

 馨は、ようやく決まったのか自販機のボタンをピッと強く押した。ガコン、と再び缶が落ちる音が響く。
馨はそれを拾い上げると、大袈裟に肩をすくめて笑い出した。

「はは、何もないよ? 何、朔也、焼きもち焼いてんの? オモロ」

 軽い調子でからかいながら、ゆっくりと背を向けて歩き出す馨。
その無防備な背中に向けて、朔也は何とも言えない、冷酷で粘り気のある目線を真っ直ぐに突き刺していた。


「はは、そーかもね」


 朔也の低く乾いた笑い声が、夏の熱気に溶けていく。

 壊れ始めた天秤の上で、少しずつ、けれど確実に歪んでいく三人の関係。


 彼らの頭上、高くそびえ立つアトラクションの無機質な鉄の棒。
そこに張られた歪な蜘蛛の巣の上を、一匹の蜘蛛が不気味に這い回りながら、彼等を冷徹に見下ろしていた。