鏡の向こうに映る、酷く孤独で哀れな自分。一花がじっとその姿を見つめていると、視界の端の景色が、奇妙に歪み始めた。
背後の鏡。そこに映し出されたのは、現在の迷路の景色ではなかった。
それは、遠い日の記憶の断片――幼い頃の、一花自身の姿だった。
泣き叫びながら、必死に出ていく父親の後ろ姿を追いかける小さな自分。あの凄惨な拒絶の日から、私の時はずっと止まったままだ。進むこともできず、戻ることもできず、ただあの日に囚われ続けている。
足元から茨のような黒い茎が伸び、現在の自分の身体へと容赦なく巻き付いていく幻覚が見えた。鋭い棘が肌を突き刺し、身動きが取れずにもがき苦しんでいる、醜悪な自分の姿。
「なんて……醜いんだろう……」
一花は光を失った虚ろな瞳で、ぽつりと呟いた。
目の前の鏡に、震える手のひらをピタリと押し当てる。ガラスの冷たさが、現実の感覚を辛うじて繋ぎ止めていた。
(どこで……間違えたの……? どこで私は、歩む道を完全に踏み外したの……?)
復讐のために偽りの自分を重ね続けた結果、本当の自分がどこにいるのか、もう分からなくなっていた。
その時だった。
一花が手を当てている鏡の向こう、背後の通路を映すガラスに、誰かの影が映り込んだ。
(あ……)
一花の胸に、かすかな期待が芽生える。私を見つけてくれたのは、もしかして、あの純粋な朔也だろうか。アナウンスの言う通り、ここで彼と巡り会えたなら、この呪われた迷宮から救い出してもらえるかもしれない。
「……朔也くんっ?」
一花はぱっと勢いよく振り返り、その名前を呼んだ。
しかし、鏡の角からゆっくりと姿を現したのは――朔也ではなかった。
薄暗い鏡の街灯に照らされながら、いつもの不敵な笑みを浮かべた、碓氷馨だった。



