しばらくして空麗と馨が戻ってくると、4人は次のアトラクションへと向かった。たどり着いたのは、メルヘンな外観が目を引く「おとぎの国の鏡の世界」だった。
そこは全面が鏡で作られた複雑な迷路。スタート地点はバラバラで、一人ずつ中に入り、自力でゴールを目指すというルールだった。
『無事にゴールで巡り会えた男女は、永遠に固く結ばれる運命にあるのです――』
館内にそんなおとぎ話らしいアナウンスが響き渡る中、4人はそれぞれ別の入り口から中へと入っていった。
一花はゆっくりと鏡張りの迷路へ足を運んだ。
壁も、天井も、床も、すべてが磨き上げられた鏡。どこを向いても自分の姿が無限に映し出される奇妙な空間だ。最初は冷静に進んでいた一花だったが、どれだけ歩いても朔也たちの気配は全く感じられない。完全に迷ってしまっていた。
時間が経つにつれ、静寂が恐怖へと変わっていく。
鏡に映る妖精を見つければゴールが近いというヒントを思い出すが、見えるのは自分の姿だけ。右を向いても、左を向いても、嫌でも「自分」と目が合ってしまう。その事実が一花の精神をじわじわと削り、ひどく居心地の悪い気分にさせていった。
「なんか、気分悪い……。早く出たい……っ」
額に冷たい汗が流れる。
朔也への復讐のために「可愛い彼女」を演じ、馨の前では剥き出しの憎悪を晒し、空麗の恋心さえ利用しようとする自分。無限に増殖する鏡の中の自分が、一花の犯している罪を、その醜い本心を一斉に糾弾しているかのように思えた。
呼吸が浅くなり、足がもつれる。
そのまま歩き進んだ先は、行き止まりだった。
一花は行き場をなくし、正面の大きな鏡に吸い寄せられるようにして、至近距離で自分を覗き込んだ。そこに映る自分の顔を、凝視する。
そして、一花は初めて気がついてしまった。
鏡の向こうの柊一花は、朔也を騙しているときの歪んだ冷笑を浮かべているわけではなかった。かといって、馨に唇を奪われたときの怒りに狂った顔でもない。
そこにいたのは、何かに激しく怯え、ひたすらに拒絶されまいとしがみつく、かつて父の愛を失ったあの日のままの、ひどく哀れで孤独な彼女の姿だった。



