ジェットコースターがプラットホームに戻ってきたとき、朔也は完全にノックアウトされていた。近くのベンチにどうにかたどり着き、魂が抜けたようにくたくたになっている。
「あっはは! 朔也、お前マジで傑作すぎ!」
その哀れな姿を見て、馨はこれ以上ないほど楽しそうにお腹を抱えて大爆笑している。そんな男たちを置いて、一花と空麗は近くの自販機へジュースを買いに走っていた。
戻ってきた一花は、冷えたスポーツドリンクのペットボトルを朔也の頬にそっと当て、そのまま手渡した。
「朔也くん、大丈夫? ごめんね、そんなに絶叫系が苦手だと思ってなくて……」
眉をハの字に曲げ、申し訳なさそうにモジモジとする「健気な彼女」を完璧に演じてみせる。朔也はまだ少し蒼白い顔のまま、愛おしそうに目元を緩めて笑った。
「いいよ。俺が一花と一緒に乗りたかっただけだから」
「はぁ、朔也マジで面白いわ……最高」
まだクスクスと笑い続けている馨に、一花はすっと表情を硬くし、声をぶつけた。
「ちょっと、碓氷くん。笑ってないで少しは心配してあげなよ。親友でしょ?」
一花の言葉に、二人の間に流れる空気がピキリと張り詰める。その微妙な不穏さを察知した空麗が、焦ったように慌てて二人の間に割って入った。
「まぁまぁ、二人とも! じゃあさ、私と馨くんはまだまだ元気だし、二人で別のアトラクション行ってくるね!」
空麗はそう言うと、馨の腕をぐいっと引っ張って、強引にその場から連れ去っていった。馨は去り際、一花の方を振り返り、すべてを見透かしたような意地悪な笑みを残していった。
バタバタと二人が去り、ベンチには一花と朔也だけが残された。
一花はふう、と深く息を吐き出し、朔也のすぐ隣に腰を下ろす。朔也がちらりと、隣の一花に視線を向けた。一花は少し唇を尖らせて、拗ねたようなポーズを取ってみせる。
「私……本当は今日、二人きりで来たかったな」
計算され尽くした可愛い我儘。朔也は驚いたように目を見開いた後、「はは、ごめんね、一花」と本当に申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに笑った。
一花はそこから、確信犯的に少し視線を逸らし、恥ずかしそうに頬を染めながらこう切り出した。
「じゃあ……今度、私を朔也くんの家に、連れて行ってくれたら許してあげる」
悪戯っぽく笑う一花。――これこそが、彼女の次の計画だった。
朔也の家に入り込むことができれば、パパを奪った元凶である彼の母親の情報を、嫌でも掴むことができる。その決定的な機会を、一花はずっと虎視眈々と狙っていたのだ。
突然の要求に、朔也は少し動揺したように視線を泳がせ、生真面目に頬を赤くした。
「なんだか……今日の一花、大胆だね」
「だって、ずっと朔也くんのことを独り占めしたいから」
一花は流れる髪をそっと耳にかけ、潤んだ瞳で朔也を見つめた。
その圧倒的な可憐さと、向けられた独占欲に、朔也はゴクリと喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。彼は熱を孕んだ目で一花をじっと見つめ返し、意を決したように頷いた。
「……わかった。じゃあ今度、俺の家、来ていいよ」
待ち望んでいた、決定的な快諾の言葉だった。
一花はその瞬間、貼り付けた笑顔の裏側で、心の底から激しく歓喜していた。ついに復讐の舞台が、奴らの本拠地へと移るのだ。



