ダブルデートという最悪の幕開けではあったものの、いざ中に入ってしまえば、気の置けない空麗との時間は純粋に楽しかった。一花は空麗と腕を組み、カラフルなアトラクションが立ち並ぶ園内を笑顔で歩いていく。
「一花、次はあの絶叫ジェットコースター乗ろうよー!」
空麗が案内図を指差しながら、無邪気にはしゃいだ。一花もそれに合わせて「あ、いいね! 乗ろう!」とにこにこと笑って答える。
しかし、そのやり取りを聞いた瞬間、隣を歩いていた朔也の顔が分かりやすく引きつった。
「あー、俺はちょっと……絶叫系はパスかな……」
情けない声を漏らす朔也。その背後から、待ってましたとばかりに長い腕が伸び、朔也の肩をがっしりと抱き寄せた。
「何、乗らないの? いやいや、せっかく来たんだから、一花ちゃんに良いところ見せなきゃダメだろ? 朔也くん?」
馨だった。いかにも男友達らしいノリを装いながら、拒否権を与えない強さで朔也を強引に列へと引っ張っていく。
一花は、そんな風にじゃれ合っている二人を冷めた目で見つめていた。
(朔也くんは優しくてお人好しのキャラ。碓氷くんは傲慢で意地悪。……なんであの二人って、あんなに仲が良いのかしら)
正反対すぎる二人の歪な友情に、一花は言い知れぬ違和感を覚えて訝しげに眉をひそめる。しかし、隣にいた空麗は全く違う受け止め方をしているようだった。
「ふふ、素敵だよね~、男の子の友情って。馨くん、やっぱり友達思いで優しいな」
恋する瞳で馨の後ろ姿を見つめる空麗。一花はとっさに思考を切り替え、いつもの明るい声音を取り戻した。
「そうだね! 仲良しで微笑ましいよね」
やがて順番が回ってき、ジェットコースターの座席へと案内される。前列にははしゃぐ空麗と、どこか退屈そうに髪をいじる馨。そして後列に一花と朔也が並んで腰掛けた。
安全バーが下りるガタガタという重い音が響く中、朔也が少し引きつった苦笑いを浮かべながら、隣の一花の手をそっと握りしめてきた。その手のひらは、微かに汗ばんでいる。
「朔也くん? どうしたの?」
一花が小首をかしげて見つめると、朔也は恥ずかしそうに目を細めた。
「実はちょっと、高いところとかスピードが苦手なんだ。だから、手を繋いでてほしいな」
頼りなげに微笑む恋人。それを見つめる一花の心の中は、驚くほど冷え切っていた。
(パパを奪ったくせに、こんな弱点があるなんて。なんだか滑稽ね)
けれど、表面上の彼女は違った。一花は完璧な「可愛い彼女」の表情を作り上げ、握られた手を優しく握り返した。
「うん、いいよ! ずっと繋いでるからね」
一花は愛らしい笑みを朔也に向けた。コースターがゆっくりと、ガタガタと音を立てて上昇を始める。その最悪なスリルの高まりを感じながら、一花は笑顔の裏で、前列に座る馨の鋭い視線が自分たちに向いていないかを、冷徹に警戒していた。



