TRAP×GIRL【完結】




バタン、と重い鉄扉が閉まる。その音が静寂の屋上に響き渡った瞬間、一花の顔から先ほどまでの可憐な色彩が、完全に消え失せた。

 仮面を乱暴に剥ぎ取るように、その表情は一瞬で冷徹な「素の自分」へと切り替わる。一花は鋭い視線を正面の男にぶつけ、怒りを孕んだ声で言い放った。

「……わざとでしょ?」

 馨はクスッと喉を鳴らして笑い、何の手応えもないといった風に肩をすくめた。

「あー、バレた?」

 悪びれる様子など微塵もない。それどころか、馨は楽しげに、ゆっくりと一花に向かって歩みを進めてくる。
 一花はその威圧感に圧されるように、一歩、また一歩と後退った。しかし、すぐに背中に冷たい鉄製のフェンスが当たり、逃げ場を失う。

(しまっ……)

 一花が小さく息をのんだ瞬間、馨はすでに目と鼻の先まで迫っていた。

「何も逃げなくていいんじゃない? 俺と一花ちゃんの仲でしょ?」

 昨日、唇を重ね合ったあの関係。それを平然と突きつけられ、一花の胸の中で拒絶の火がカッ、と燃え上がった。

「ふざけないで。あんなのカウントに入らないから」

 怒りで声を震わせる一花を見て、馨はまた声を上げて笑った。

「はは、そっちの一花ちゃんの方がいいわ」

 可笑しくてたまらないといった様子で、馨は片手で自分の顔を覆いながらクスクスと笑い続ける。目の前で繰り広げられるその余裕な態度に、一花は猛烈な嫌悪感を抱き、激しい焦燥感から額にじわりと汗が垂れた。

「一体、何なの……? 碓氷くんは何がしたいの? 朔也くんにバラさないで、どういうつもりなの……っ!」

 何を狙っているのか、目的がまったく見えない。問い詰める一花に対し、馨はわざとらしく首を傾げてみせた。

「ん? 一花ちゃんはバラしてほしいの……?」

(ムカつく……何もかもずっとムカつく。この余裕な感じも、昨日の、あのキスだって……!)

 すべてを見透かされ、弄ばれている。一花は屈辱にキリリと奥歯を噛み締めた。その怒りが、彼女の心に眠る獰猛な執念に火をつける。一花は馨を真っ直ぐに睨みつけ、決別の言葉を突きつけた。

「言えば……? でも、あなたに私の邪魔なんか、絶対にさせないっ」

 これ以上、この男のペースに呑まれてたまるものか。一花は馨の身体を押しのけるようにして、フェンスから離れ、出口へと力強く歩き出した。