「あ、わりぃ。邪魔した?」
ガチャリと開いた鉄扉の向こうから現れたのは、やはり碓氷馨だった。
その声が響いた瞬間、一花と朔也は弾かれたようにバッと身体を離した。馨の細い瞳が一花の動揺を見透かすように、あるいは愉しむように、真っ直ぐに彼女を射抜く。
一花は心臓が口から飛び出しそうなほどのパニックを必死に抑え込み、頬を朱に染めた純情な少女の演技を瞬時に立ち上げた。
「あっ、碓氷……くん」
一花はきまり悪そうに小さく声を漏らし、恥ずかしさに耐えかねたように、さっと馨から顔を背けてみせた。
一方の朔也は、顔を真っ赤にしながら頭の後ろをポリポリとかき、苦笑いを浮かべる。
「馨かよ……。お前なぁー、タイミング考えろよな」
文句を言いつつも、そこに悪意がないと信じ切っている朔也の口調は軽い。馨はそんな親友の様子にクスッと喉を鳴らし、両手を軽く上げて、いかにも悪気のないといった顔をしてみせた。
「わりーわりー。倉先が朔也のこと探してたからさ。一応、伝えておこうと思って」
「あ――、しまった! 呼ばれてたわ」
馨の言葉に、朔也はハッとしたように自分の失念を思い出した。そのまま、慌てた様子でベンチから立ち上がる。
「サンキュ、馨! 助かったわ」
このまま朔也がいなくなれば、屋上には自分と馨の二人きりになってしまう。それだけは絶対に避けたかった。一花は焦燥感を隠し、名残惜しそうに潤んだ瞳で朔也を見上げた。
「朔也くん……もう戻っちゃうの?」
すがるような極上の演技。朔也は申し訳なさそうに眉を下げると、一花の頭をポンと優しく撫でた。
「ごめん、一花。ちょっと行かなきゃだから。……馨、一花のこと頼んだわ」
「オッケー、任せて」
馨の軽い返事を聞きながら、朔也は急ぎ足で屋上を去っていった。バタン、と重い鉄扉が閉まり、屋上には再び静寂が戻る。
一花はゆっくりと立ち上がり、冷徹な視線を馨へと向けた。



