TRAP×GIRL【完結】



翌朝、すっきりと晴れ渡った空とは裏腹に、一花の心は重く沈んでいた。緊張で強張る身体を動かし、学校の昇降口へと足を踏み入れる。

 その瞬間、視界に飛び込んできた人影に息が止まった。
 朔也だった。

「一花、おはよう。昨日は休んじゃってごめんね」

 朔也はいつもと全く変わらないトーンで、柔らかい笑みを浮かべていた。その無防備な姿に、一花は一瞬ドキリと顔をこわばらせる。

(あれ……? 朔也くんがいつも通り……? ということは、まだバラされてない?)

 馨にすべてを握られ、破滅に向かう最悪のシナリオを覚悟していただけに、拍子抜けするほどの安堵感が胸に広がった。一花は瞬時にいつもの「完璧な彼女」の仮面を貼り直すと、にっこりと微笑んだ。

「おはよ、朔也くん。ううん、いいよそんなの。お母さんの方は大丈夫だった?」

 健気に恋人を心配する少女を演じてみせる。朔也は嬉しそうに目元を緩めた。

「あぁ、ひとまず無事に検査終わったよ。心配してくれてありがとう、一花」

 安堵から小さく息を吐き、一花は朔也の隣に並んで教室へ向かおうとした。その一歩を踏み出そうとした、まさにその時だった。

「おはよー、朔也。と……一花ちゃん?」

 背後から響いた、場違いなほど軽薄で、聞き覚えのある低い声。
 ピシリ、と一花の全身が凍りついた。

 恐る恐る振り返ると、そこには昨日と変わらない飄々とした笑みを浮かべた碓氷馨が立っていた。一花は必死に顔が引きつるのを抑え込み、喉の奥から絞り出すような、感情の抜け落ちた声で答える。

「おはよう、碓氷くん……」

 二人の間に流れる奇妙な緊張感に、朔也が少し不思議そうな顔をして首を傾げた。

「あれ? 二人とも、いつの間にそんな仲良くなったの……?」

 他意のない朔也の言葉が、一花の背中に冷たい汗を伝わせる。

(どうしよう……。ここで何か言われたら、全部終わる……!)

 パニックに陥りかける一花を他所に、馨は楽しげに朔也の肩に腕を回した。そして、獲物をいたぶるような貼り付けた笑みを、じっと一花に向ける。

「昨日さ、朔也のこと心配して、たまたま二人で話してたんだよね。それでちょっと意気投合しちゃってさー。……ね? 一花ちゃん?」

 馨の細い瞳の奥が、妖しくきらめいた。その言葉は、昨日交わしたあの濃厚なキスの記憶を、一花の脳裏に鮮烈に呼び起こさせる。

 朔也のすぐ目の前で、試すように突きつけられた「秘密の共有」。一花は、馨の底知れない悪意の視線から、目を逸らすことができなかった。