ドクン、ドクン――。
静まり返った教室に、自分の激しい心音が響いているのではないかと錯覚する。一花は、今にも張り裂けそうな緊張を隠すのに必死だった。
これ以上、彼に自分の本心を悟られてはならない。一花は両手で馨の胸を押し返そうとするが、彼は一歩も引かず、その視線はまっすぐに一花を射抜いていた。
圧倒的な威圧感に、一花の胸に焦燥が広がる。逃げ場のない空気の中で、二人の視線が真っ向から交わった。
一花はこれ以上の抵抗は難しいと観念し、声を震わせながら訴えた。
「……わかった、わかったから! 碓氷くん、やめて、離れて……!」
しかし、馨は一花の狼狽を、その瞳に映る動揺を慈しむように見つめ続けた。
張り詰めた沈黙。
夕闇が教室を支配していく中、馨は低く、静かな声でこう呟いた。
「……じゃぁさ、……朔也じゃなくて俺にしない?」
一花は驚きに目を見開いた。
「は……?」
何を言われているのか、理解が追いつかない。わけがわからないという表情が、そのまま顔に出る。
だが、馨の瞳は真剣そのものだった。彼は一花との距離を詰め、熱を孕んだ言葉を重ねる。
「ずっとその朔也を見るような瞳で、俺のことを見てほしい。一花ちゃんのその瞳の奥まで深く、俺を捕らえて離さないように……」
それは、一花が向ける執着や感情のすべてを自分に向けてほしいという、歪んだ渇望のように聞こえた。
一花は硬直したまま、目の前の男を凝視した。理解しがたい要求に、困惑と拒絶の感情が湧き上がる。
「何を言ってるの……? 意味分かんない……っ!」
二人の間に、重苦しく、そしてひりつくような空気が流れていた。



