TRAP×GIRL【完結】



西日に染まる放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 長引いた委員会を終え、柊一花が戻った教室には、もう誰の姿もない。オレンジ色の光が斜めに差し込み、机の影を長く床に引き延ばしている。一花は入り口で足を止め、ぽつんと一人、誰もいない空間を見つめて黄昏れていた。

 静寂の中、彼女の足が自然とある場所へ向かう。それは―――朔也の机だった。

 一花は吸い寄せられるように、彼がいつも座っている椅子を引き、その背もたれに身を預けた。朔也の視界。朔也のいた体温。それをなぞるように、ゆっくりと机に上半身を伏せる。

 木目のざらついた感触が、頬に伝わる。
それと同時に、胸の奥からどす黒い感情が、ゆっくりとせり上がってくるのを止められなかった。

 一花は机の表面に、ゆっくりと爪を立てた。
 カリカリ、と小さな不快な音が静かな教室に響く。そのまま指先に力を込め、爪を立てたまま手をゆっくりと手前へ引きずり下ろしていく。

(早く消えてほしい)

 脳裏に浮かぶのは、あの爽やかな不倫相手の息子である朔也の顔。

(いっそずっと苦しんでいてほしい……私の、パパからの愛を返して……)

 指先に怨嗟の力がこもる。奪われたものへの執着と、彼への激しい憎悪が、一花の心を黒く塗りつぶしていく。
 それに呼応するように、彼女の表情はどんどん暗く沈んでいった。先ほどまでの大人しい少女の面影は消え去り、焦点の合わない、どこを見つめているのかも分からない虚ろな瞳へと切り替わる。それは底のない深い闇のようだった。

 その時――ガラガラと、容赦なく教室の扉が開いた。

「あれ、柊さんじゃん」

 静寂を破る、どこか緊張感の欠けた声。
 声をかけてきたのは、碓氷馨だった。いつも飄々としていて、何を考えているのかまったく読めない、掴みどころのない、一花にとっては計画の妨げになりそうな要注意人物だ。

 一花はハッとして、小さく目を見開いた。
 心臓が跳ねる。しかし、次の瞬間には、彼女の脳は冷徹に次の行動を弾き出していた。

 すっと、何事もなかったかのように背筋を伸ばし、姿勢を戻す。
 闇に染まっていた表情は一瞬で消え去り、彼女は完璧な「柊一花」を演じ始めた。

「あ、碓氷くん……? だよね、こんにちは」

 一花はふんわりと、いつもの無害で愛らしい笑みを浮かべて、馨を見上げた。