TRAP×GIRL【完結】



数日後の放課後、白いカーテンの揺れる保健室から出てきた一花と朔也の手は、静かに、けれど固く結ばれていた。

廊下を進む二人は、時折お互いの顔を見つめ合っては、初々しい恋人同士のように優しく微笑んでいた。それが、一花の手によって完璧に仕組まれた、夏目朔也を奈落の底へ突き落とすための『偽りの愛の形』であるなど、誰も気づくはずがなかった。

それから、二人は正式に交際を始めた。

最初はただ隣の席に座るだけの転校生だったはずの一花が、学校中の女子の憧れである夏目朔也を射止めたのだ。一花の怪我を誰よりも身を案じていた空麗も、「一花ちゃん、本当に本当におめでとう!」と自分のことのように涙ぐんで喜んでくれた。

二人が付き合ったというニュースは、瞬く間に学年中の噂となって駆け巡った。周囲の生徒たちは口々に「あんなにお似合いのカップルはいない」「本物の美男美女」と彼らの恋を祝福した。

けれど、その甘やかな祝福の渦の中に、どうしても馴染めない男が一人だけいた。

親友の、碓氷馨である。

いつも誰かしら女性の噂が絶えず、物事を冷めた目で見る馨も、今回ばかりは隠しきれない驚きと不穏な胸騒ぎを覚えていた。あの日、ベランダから朔也に『憎悪の瞳』を向けていたあの柊一花が、なぜ今、朔也の隣で可憐な恋人の顔をして笑っているのか。

ある日の昼休み。広々とした学校の屋上には、フェンスに背を預けて並ぶ朔也と馨の姿があった。

初夏の強い日差しが照りつける中、馨は口の中に放り込んだチュッパチャップスを転がし、からからとプラスチックの棒を鳴らしながら、遠くの街並みをじっと見つめていた。視線を向けないまま、低い声で問いかける。

「朔也、あれマジなの?」

「あぁ、マジだよ」

向けられた朔也は、頬を少し緩ませ、心底嬉しそうな顔をして遠い空を見上げた。

「なんだか俺、一花とこうなる運命だったんじゃないかって、薄々思ってたんだよね。一花といると、すごく不思議な感覚になるんだ」

運命。
親友の口から飛び出したその盲目的な言葉に、馨の切れ上がった瞳が微かに細められた。馨はそれを祝福するわけでもなく、影の落ちた複雑な表情のまま、感情の読めない声音で短く呟いた。

「ふーん……。まぁ、続くといいな」

その素っ気ない態度に、朔也は「おいおい」と苦笑しながら馨の肩を軽く小突いた。

「あれ? 馨、そこは普通『おめでとう』だろ。何だよ、お前が彼女できないからって拗ねてんのか?」

「いや、別に……」

馨はそれ以上、何も答えなかった。ただ、口の中のキャンディを噛み砕く鈍い音だけを響かせ、ポケットに手を突っ込んだまま、意味深な背中を向けて屋上の重い鉄扉の向こうへと去っていった。

一人取り残された朔也は、親友のいつもと違う異様な態度を不思議そうに見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……馨?」

誰もいない屋上に、生ぬるい風が吹き抜ける。
馨の胸の中で、一花への疑惑は確信へと変わりつつあった。自分を存在しないかのように無視したあの彼女が、親友を騙し、その心を侵食しようとしているのではないだろうか。

そして馨自身もまた、その歪んだ愛を放つ彼女の全貌を暴きたいという、狂おしいほどの執着の毒に侵され始めていた。