そしていよいよ、運命の二試合目が始まった。
一花のグループと、空麗のいるグループとの対戦。一試合目で華麗なプレーを披露し、一躍注目の的となった一花がコートに立つとあって、隣のコートで見学していた男子生徒たちの視線も自然と彼女の動きに集まっていた。
ホイッスルが響き、コート内が激しく動き出す。一花は無駄のない鮮やかなドリブルで相手をかわし、正確なパスを繰り出しながらゴールへと走っていく。その躍動する黒髪を、男子たちが、そして何より夏目朔也がじっと追いかけているのを肌で感じていた。
チャンスはすぐに訪れた。
一花はボールをキープしながら、対峙する空麗へふっと鋭い目配せを送った。これが、更衣室で交わした計画の合図。
受け取った空麗は一瞬だけ目を見開いたが、一花にしか伝わらない確かな強さで小さく頷き、返事をした。
味方からのパスが一花の手元へと吸い込まれる。それと同時に、目の前から空麗がボールを奪い取るような猛烈な勢いで迫ってきた。
(今――)
一花はそのタイミングを完璧に見計らい、自ら空麗の身体へとぶつかりにいった。
瞬間、一花の世界の時間が引き伸ばされ、ゆっくりとしたスローモーションのように切り替わる。窓から差し込む六月の鈍い光、飛び散る汗、天井の鉄骨、そして激しく揺れる空麗の顔。
一花は重力に身を委ねるようにして、体育館の固い床へと倒れ込んでいった。
バタンッ!
乾いた、けれどひどく重い衝撃音が静まり返った体育館に響き渡る。
「ピーーーー!」
間髪入れずに体育の先生の鋭い笛の音が鳴り響き、すべての試合が強制的に止められた。
「一花! 大丈夫!? 一花!?」
ぶつかった張本人である空麗は、あまりの音の大きさに完全に血の気を失い、焦りと恐怖で目を見開いた。嘘の怪我だと分かっていても、親友を床に叩きつけてしまったという罪悪感に震えながら、倒れ伏した一花の肩にすがる。
「大丈夫か、柊!」
遠くから体育の先生が血相を変えて走ってきて、一花の横に素早く膝をついた。
一花はうつむいたまま、苦痛に耐えるようにきゅっと細い眉をひそめた。そして、片手を自分の右足首へと添え、じっと痛がる素振りをみせる。長い黒髪が床に広がり、その儚げな姿は、まるで羽を傷つけられて地面に横たわる、あの日の青紫の蝶そのものだった。
その痛々しくも完璧な犠牲の光景を、隣のコートから生々しく見つめていた朔也がいた。
彼は一花が床に倒れた瞬間、心臓を直接掴まれたかのような強い衝撃に襲われていた。考えるよりも先に、彼の身体は動いていた。周囲の男子たちが呆気に取られるのを置き去りにして、朔也は吸い寄せられるように、彼女へとまっすぐ走って近づいていった。
仕組まれた檻の真ん中で、蜘蛛の糸が、獲物の身体を容赦なく絡め取ろうとしていた。



