一花の計画通り、その日の体育は男女合同のバスケットボールだった。
体育館は二つのコートに分けられ、男子と女子が隣り合わせのコートで同時に試合を行う。
一試合目は、男子のコートが異様な盛り上がりを見せていた。
夏目朔也はバスケットボールのセンスも抜群で、コート内を俊敏に駆け回りながら次々とゴールを決めていく。そのたびに、見学している女子生徒たちの間から黄色い歓声が上がった。
「夏目くーん! かっこいい!」
「バスケうま!」
「もう、あんな彼氏ほしー!」
誰もが彼を羨望の眼差しで見つめ、キャッキャッと騒いでいる。隣にいた空麗も、興奮した様子で一花の肩を揺さぶった。
「やっぱ、夏目くんダントツだね! 一花!」
「ふふ、そうだね!」
一花は頬を少し上気させ、まるで好きな人の活躍を純粋に喜んでいるかのような、ワクワクとした表情を作って朔也を見つめた。けれどその実、彼の動きを冷徹に分析し、これから自分が立つべき舞台の引き立て役として申し分ない存在だと、胸の内で冷たく嘲笑していた。
そして、次は女子の試合だった。
一試合目に組まれたのは、一花の属するグループと、空麗のいない別のグループの対戦。これもすべて、一花が事前に周囲を誘導して仕組んだ計画通りだった。
ホイッスルが鳴り、試合が始まる。
一花はわざと教室内で、そして隣のコートの男子たちの中で際立って目立つように、完璧なプレースタイルを披露していった。この日のためだけに、彼女は裏で血の滲むような練習を重ね、バスケットボールの技術を極限まで磨き上げていたのだ。
華麗なドリブルで相手を抜き去り、綺麗なフォームでシュートを決める。長い黒髪が汗に濡れて美しくなびく。
その圧倒的な躍動感に、隣のコートで見学していた男子たちが一斉にざわつき始めた。
「うわ、柊さん、運動神経抜群じゃん」
「可愛いと思ってたけど、更にやべーな」
「レベル高ぇ……」
ヒソヒソと交わされる男子たちの生々しい称賛の声。
そのノイズは、当然のように隣に座っていた朔也の耳にも届いていた。朔也は自分のドリンクを持つ手を止め、吸い寄せられるようにして、隣のコートで凛々しく立ち回る一花へと視線を向けた。
(見てる――)
一花はコートを走りながら、朔也の視線が自分に縫い付けられたことを肌で感じ取っていた。男子からの視線を独占し、何より夏目朔也の目を自分から離れさせないために、彼女は一番美しく見える角度で、一番完璧な立ち回りを演じ続けていたのだ。
そんな一花の極めて計算高い辻褄合わせに、周囲の女子生徒たちは気づくはずもなかった。
「柊さん凄い!」
「ねぇ、うちのバスケ部入らない!?」
試合が終わる頃には、敵味方関係なく、一花はクラスの女子たちからも瞬く間にちやほやされる中心人物になっていた。
すべては、次の一戦で仕掛ける『罠』の威力を最大にするための、完璧な前座。
一花は健気に息を弾ませながら、隣のコートで完全に自分に目を奪われている朔也を、視野の端で確かに捉えていた。



