TRAP×GIRL【完結】



職員室へと足を運ぶ一花の足取りは、いつになく軽やかだった。

廊下のガラス窓に映る自分の顔を見る。作戦が完璧に上手くいったことに歓喜し、油断すれば今にも口角が上がってしまいそうになるのを、一花は必死に押し殺していた。

(大丈夫。これで少しは効果があったはず)

先ほど抱きとめた瞬間の、朔也の狼狽した顔、耳まで真っ赤に染まったあの初々しい表情を思い出すたびに、一花の胸の内で冷徹な手応えが確信へと変わっていく。あの男は、もう私の存在を頭から消し去ることはできない。

それからの日々、二人の間には、何事もなかったかのように他愛のない関わりが続いた。

隣の席同士、授業中にノートの貸し借りをしたり、教科書のページを教え合ったり、空麗を交えて他愛のない世間話を交わしたり。一花はどこまでも従順で、少し内気な「柊一花」を完璧に演じ続けていた。

しかし、水面下の変化は確実に起きていた。

授業中、あるいは休み時間。朔也は時折、隣の席の一花の様子をひどく気にするように、そっと視線を向けてくるようになった。一花がそれに気づいて不意に振り返ると、彼はハッとしたように慌てて目を逸らし、耳の裏を赤く染める。その一連の動作を、一花はすべて把握していた。

(やっと――かかった)

一花の胸の奥底で、昏い愉悦の火が音を立てて燃え上がる。
それは、彼女が校舎という巣の中にじっくりとはり巡らせてきた、目に見えない蜘蛛の糸だった。その粘着質な糸に、何も知らない哀れで美しい一匹の蝶が、自ら羽を絡め取られてもがいている。そんな極上の収穫を得たような、冷酷な高揚感が一花の全身を満たしていた。

掴みは、これ以上ないほどに完璧。
だらだらと彼を焦らす必要はなかった。これ以上、普通の友人としての距離を保ち続ければ、逆に糸が緩んでしまう。

(さあ、次の計画へ移ろうか)

一花は授業のチャイムを聞きながら、ノートの端に、彼をさらに深い深淵へと引き摺り下ろすための『次なる罠』のシナリオを静かに描き始めようとしていた。