それから月日が経ち、季節は巡る。
空を分厚い雲が覆い、じっとりとした湿気が肌にまとわりつく、夏前の六月に差し掛かろうとしていた。
柊一花は、とある私立高校の校門の前に立っていた。
コンクリート造りのそびえ立つ校舎。
何百人もの生徒が行き交うその場所こそが、あの不倫相手の息子――夏目朔也が通っている高等学校だった。
あの資料倉庫の日から、一花の執念は狂気を帯びていた。あらゆる手段を使って彼の足取りを追い、ようやくこの学校を突き止めた彼女は、自らこの場所へ飛び込むための「転入手続き」を進めてきたのだ。
前の学校で陰湿ないじめに遭っている。学校へ行くのが苦しい。
そんな嘘の涙を浮かべれば、一花を心から愛する母親の澪は、簡単に騙されてくれた。
娘の傷ついた姿に胸を痛めた澪は、一花の望む通り、この学校への転入を全面的にサポートし、手続きを終えてくれたのだった。
母親の無償の愛すら、復讐の踏み台に過ぎなかった。
一花は、これから自分の戦場となる巨大な校舎を、心のない虚ろな瞳で見つめていた。
その瞳の奥には、恐怖も躊躇いも何一つ存在しない。
あるのは、すべてを奪い尽くすという冷徹な意志だけだった。
すっと顎を引き、一花は校門をくぐって歩き出す。
「ふふっ、やっとここまでたどり着いた…」
アスファルトを静かに叩く、新しいローファーの足音。
規則正しく響くその音は、これから始まる残酷な復讐劇の幕開けを告げる、決意の足音だった。
あの夏の日に奪われたすべてを、この手で取り戻す。
父の愛を、彼らの絶望と引き換えに、私が完璧な標本にしてみせる。
雨を含んだ重い風が、一花の黒髪を静かに揺らしていた。



