館内がゆっくりと暗転し、スクリーンにはエンドロールが流れ始める。
劇場の暗闇の中で、一花と馨はただ静かに、光の文字を見つめていた。
物語の余韻が心地よく心に染み渡る中、音楽がゆっくりとフェードアウトしていく。
そして、映画の本当に最後の瞬間。真っ黒な画面に、ぽつりと白い文字が浮かび上がった。
『
私たちは傷つけ合い、時に大切な何かを失う。
それでも誰かの手を握り返すのは、一人では生きていけないと知っているからだ。
あなたの差し伸べた手が、誰かの絶望を溶かす光になるかもしれない。
血の繋がりも、過去の過ちも関係ない。
ただ「あなたと生きたい」と願う意志こそが、愛なのだから。
今、あなたの隣にいる人の手を、どうか離さないでほしい。
世界がどれほど冷たくとも、繋いだ手の温もりだけは、本物だから。
―――朝霧青紫 』
一花は、その言葉を一つひとつ、胸の奥へと刻み込むように見つめた。
それは父親が紡いだ言葉であり、同時に、一花と馨がもがきながら、傷つきながら、ようやくたどり着いた世界の答えそのものだった。
隣から、かすかな気配がした。
馨が一花の顔を覗き込み、ふっと優しく微笑みかける。一花もまた、愛おしさを込めて微笑み返した。
二人の結んだ手には、お互いの確かな体温が灯っている。いくら過去にどれほど暗い傷を負っていようとも、今ここで重なり合う温もりだけは、何よりも絶対的な真実だった。
やがて文字が静かに消え、映画は完全に幕を閉じた。
劇場に明るい照明が灯り、現実に引き戻された観客たちの拍手と歓声が響き始める。
その賑やかな光の出口へと、二人は繋いだ手をさらに強く握り締めながら、前を向いて歩き出した。
Fin.



