コンクリートの上で仰向けになっていた馨が、不意に身体を起こした。気まずさに身を縮めていた一花も、気まずさを誤魔化すようにのそのそと起き上がる。
馨はふと、頭上に広がる空を見上げた。広大な秋の空はどこまでも青く、遮る雲一つない快晴だった。
「ねぇ、一花」
空を見つめたまま、馨が静かにその名を呼んだ。
「何っ……?」
一花はぶっきらぼうに答え、ツンと視線を逸らした。どさくさに紛れて呼び捨てにされたことには、もうこの際突っ込まないことにする。
すると馨は、ゆっくりと一花の方へと身体を向けた。その瞳は、いつになく真剣に一花を捉えている。
「……俺の事、好き?」
ストレートすぎる問いに、一花は思わず目を見開いた。馨の整った顔が、まっすぐに自分を見つめている。一花は胸の鼓動が跳ね上がるのを感じながら、いたたまれなくなって視線を足元へと落とした。
「……うん、好き……」
消え入りそうな小さな声。それが一花の精一杯の答えだった。
「ふはっ、超顔真っ赤じゃん!」
沈黙の後、馨が意地悪そうに吹き出した。一花は羞恥心が限界を迎え、悔し紛れに顔を跳ね上げる。
「何よっ!何か悪い―――っ!?」
言い返そうと開いた唇は、それ以上の言葉を紡ぐことを許されなかった。
柔らかな感触が、一花の唇を優しく塞ぐ。
すぐ近くにある馨の体温に、一花は驚きで少し泣きそうになりながら、そっと静かに目を閉じた。ぬるい風が二人の髪を揺らしていく。
馨は一花のなめらかな頬にそっと手を添え、名残惜しそうに、ゆっくりと唇を離した。そして、至近距離から一花の瞳を覗き込み、低く甘い声で囁く。
「俺も好きだよ、一花。……ずっと俺の事を、愛してくれるよね?」
どこか不敵で、だけど一花を絶対に離さないという執着を孕んだ、彼らしい歪んだ微笑み。
一花の顔はふたたびカァッと赤くなった。
けれど、今度はもう目を逸らさなかった。
まっすぐに馨の瞳を見つめ返し、覚悟を込めて言葉を紡ぐ。
「―――ずっと、愛してあげる。」
それは、かつて復讐に囚われていた少女が、新しい光と共に生きていくことを決めた、確かな誓いの言葉だった。



