始業式が終わり、生徒たちの喧騒が教室から消えていく中、一花は迷わず屋上へと向かった。重い鉄の扉を押し開けると、そこには少しぬるい、秋を予感させる風が通り過ぎていた。
一花が周囲を見渡すと、心臓が跳ね上がった。
碓氷馨は、そこにいた。しかし、彼は安全な場所にいるのではなかった。立ち入り禁止のフェンスを軽々と飛び越え、遥か下を見下ろす境界線で、危なっかしく足をぶら下げて座っていたのだ。
一花は目を見開いたまま、慌てて彼の方へと駆け寄った。
「碓氷くん……!?危ないよ、そんなところで何してるの……?」
その声に、馨は億劫そうにちらりと一花を振り返った。そして、いつものようにどこか飄々とした笑みを浮かべる。
「一花ちゃん、久しぶりだね。――無事、……終わったのかな?」
その言葉の裏にある意味を瞬時に理解し、一花は自嘲気味に口元を歪めた。
「うん……、まあね。結局、私がやってきた事に、意味なんてなかったけど……」
一花のどこか寂しげな笑みを見て、馨は空を見上げながら、わざとらしくため息をついた。
「そう、……まぁ、勝手に転校するんだもんなあ、朔也のやつ。一花ちゃん、ちょっとやりすぎたんじゃない?」
「もういいの!終わった事だしっ」
一花はフェンスの前にしっかりと立ち、馨のからかうような言葉を遮った。
そして、ずっと胸の奥で燻っていた想いを吐き出すように、真剣な瞳で馨を見つめた。
「それより、ちょっと話したい事があるの。……だから、こっちに来てくれない?」
馨の視線が、再び一花へと戻る。ぬるい風が一花の髪を揺らし、二人の間に確かな沈黙が流れた。



