一花は目を見開いて、朔也を見つめた。
街の喧騒から切り離された静かな部屋の中で、彼の声だけが冷酷に響く。
朔也はクスと笑い、そして一花のすべてを打ち砕く衝撃的なひと言を告げた。
「君は柊一花……いや、朝霧一花。朝霧蒼士の娘、だよね…?」
その瞬間、一花は全身の血のけがひくような感覚に陥った。心臓が跳ね上がり、喉の奥が引き攣る。
「…なんで」
言葉が続かない。隠し通してきたはずの過去。偽ってきた名前。そのすべてを、目の前の男は見透かしていた。
朔也は、獲物を追い詰めた肉食獣のようにニヤりと笑った。
「初めて会ったときから気付いてたよ。まさか本当だとは思ってなかったけど……小さい頃、蒼士さんが俺とキャッチボールしていた時、草の茂みに隠れていた女の子を見つけたんだ。その子はね、ずっと蒼士さんを見てた。俺の存在がないかのように、ずっと嫉妬と憎悪にまみれた瞳で見つめてたんだ。俺はずっとそれが忘れられなかった」
一花はその威圧感に足が震え、動くことができない。
「初めて君に会ったとき、確信したよ。その瞳と変わらなかったからね。だから一花は、俺にずっと復讐する機会を狙っていたんだろ?」
愉悦に満ちた声で笑う朔也を、一花は信じられない思いで見つめた。頭の中が混乱で激しく渦巻く。
「じゃぁ、付き合ったのもわざと?」
一花の声は震えていた。これまでの甘い時間も、優しい言葉も、すべてが虚構だったのか。
朔也は、その問いを待っていたと言わんばかりに深く頷いた。
「あぁ、そうだよ? どんな復讐をしてくれるのかわくわくしてた。だから君から片時も離れないように付き合った」
歪んだ歓喜を瞳に宿して笑う朔也。その言葉は、一花の心に鋭い刃となって突き刺さった。しかし、傷ついた心の上に、それ以上の激しい感情が燃え上がる。
一花の視線は、部屋の机の上に落とされた。そこには、彼女の最愛の父であり、朔也が奪い去ったはずの、朝霧蒼士の小説が置かれていた。
そのページは、見るも無残に切り裂かれ、ズタズタに引き裂かれている。
一花は、握りしめた拳を震わせ、怒りを露わにした。
「なんで……っ! じゃあなんでパパの小説がズタズタになってるの?!」
叫び声に近い一花の問いに、部屋の空気が凍りつく。復讐の舞台は反転し、二人の狂気と秘密が激しく交錯し始めていた。



