本屋のお姉さん

 新刊コミックスに手を伸ばす。笑顔のキャラクターに見つめられるのがいやで、自分の手でキャラクターの顔を隠すようにして手に持った。でもそのままレジには向かわずに、逆方向にある出口を目指す。
 出口の外に広がる大空さえも自分を責めているような気がして、目をつむる。
 あぁ、誰か止めてくれないだろうか。その思いとは裏腹に足は出口に向かって進むのをやめない。
 その足を止めてくれたのは人じゃなかった。
 けたたましく鳴る警報音は、出口に設置されたゲートからだ。警報音の合間に店内の静かなジャズミュージックが聞こえる。レジの人が慌てて出てくるのが視界の端に見えた。
 でも、それよりも早く別の誰かに腕を握られる。
「ちょっとバックヤードまで来てくれるかな」
 その落ち着いたような、怒ったような声は想像していたよりも高くて、思わずそっちを見た。
 ぼくの腕を掴んでいたのは女性だった。肩より下まで伸びたロングヘアに赤いフチのメガネ。その目は細く睨んでいるように見えた。
 お姉さんはぼくのうでを掴んだまま、引っ張った。ぼくはお姉さんを見ていたのもあって、急に引っ張られて足がもつれて、尻餅をついた。まるで行きたくないと拒否している人みたいになってしまう。遅れてやってきたレジの人がぼくを起こそうとしたけど、お姉さんが手で制した。
「あー、こっちでやっとくから、大丈夫ー。仕事に戻りなー」
 そう指示する声はどこか気だるげで、多分その“だるいなぁ”という感情は、その店員さんにではなく、ぼくに対してなのだろうと思った。
 でも内心、ぼくはほっともしていた。これで「ちゃんと盗もうとはした」と言うことができる。失敗したということで、また殴られるかもしれないけど、やらなかったり、嫌だと断ったときよりはマシだろう。
 ぼくはすいませんと謝って、ちゃんと立ってお姉さんの後をついていく。お姉さんはぼくが逃げないと分かったのか、腕を掴んでいた手を離してくれた。
 握られていたところをさする。でも、別に痛いわけじゃなかった。
 怪我をさせちゃったあの子も、こんな気持ちだったのだろうか。