ぜんぶお前のためだから


お互いの距離が縮まる。

10㎝。

5㎝。

3㎝。

あと少しで唇と唇が触れ合う所で、陽太の動きが止まった。


「俺……実月のこと、信じてたんだ」


陽太の囁くような声が僕の両耳をくすぐる。

握られたままの手を指先で撫でられ、ゾクリと体が熱を帯びる。

陽太の目が肉食獣のようにギラリと輝いた。


「お前なら、“助けて”って……いつか俺のことを頼ってくれるって……そう思ってずっと待ってたんだけど、もう無理だ」


「なんのこと……言って……」


「分かんない?こんな近くに俺を許してるのに」


「……っ……」


やっとの思いで逸らした顔に、陽太のもう片方の手が添えられた。


「ね……こっち向いて、実月」


優しい口調と、手のひらの温かさ。

それに戸惑いながらも、再び視線をゆっくりと陽太に合わせる。

彼は僕の頬をするりと撫でて、ふっと小さく笑う。


「ごめん……俺、やっぱり実月のこと好きみたい」


もう耐えられないとでもいうように、陽太が切ない声色で告げる。

驚く僕の顔を見て、彼は機嫌をうかがうかのようにこう問いかけた。


「キス、してもいい?」


――嫌なら、殴って突き飛ばして。

そう言い残した陽太のおでこが、僕のおでこにコツンとくっつく。

再び近づいた距離に、僕は。

驚いていたけど、でも。

“嫌だ”とは……微塵も思わなかった。

だって……僕も陽太のこと、ずっと前から……。

忘れかけていた恋心に熱が灯るのと同時に、距離が近づく。

吐息が交わり、やがて……。

僕たちの距離はゼロになった。