御伽噺にはなれない―お人好し文官と奇人魔術師の宮廷事件簿―

 とは言え、だ。繰り返しになるが、やるしかない。切り替えて、アルドリックは設定を改めた。

「まぁ、それで、今の僕はきみの弟子なわけだけど。きみ、二十三だろう? ここを卒業して六年。今の僕が十六ということは、一番長くで十才から面倒を見てもらってるってことだよね」

 塔に引き籠もっている彼の現状が、今回ばかりは功を奏している。エリアス・ヴォルフ一級魔術師の私生活など、誰も知らないという意味で。
 確認したアルドリックに、エリアスは「そうだ」と真面目に頷いた。

「魔力検査後に縁故を頼って弟子入りし、修行に励んでいたものの、事故に遭って記憶に抜けが生じた。魔術の知識であやふやな部分が散見され、勉強のやり直しが必要な状態である。そのタイミングで臨時講師の話が飛び込んできたので、おまえも編入してやり直すことにした。おおまかに矛盾はない」
「きみと関係があることにしておくと、構内できみと話す理由になるからいいよね。でも」
「なんだ?」
「いや、ええと、学院を頼らず魔術師に弟子入りをする子って、この国では珍しいんじゃないかなと思って」
「かなりイレギュラーだが、ないわけではない。学院を卒業せずとも、試験に受かれば国家魔術師になることはできる」

 規定にあっても、十年に一例もないような。不安が過ったものの、今の自分はイレギュラーな存在と信じ込むほかない。
 曖昧に首を振ったアルドリックに、エリアスは注釈を挟んだ。安心させようとしてくれたのかもしれない。

「フレグラントルではよくある話と聞くが。学院に入学する前から個人で魔術師に弟子入りをし、魔力をコントロールする術を学ぶそうだ」
「へぇ、さすが魔術大国。やっぱり魔術が盛んなんだな。小さいころから弟子入りって、なんだか憧れるなぁ」

 目を輝かせると、なぜか彼は物言いたげな視線を寄こした。

「俺に言わせると、フレグラントルの魔術師はお上品すぎる」
「そうなんだ」

 隣の大国フレグラントルは、五大魔術師ふたりを擁する大陸随一の魔術国家だ。幼いころに本で読んだので、アルドリックも呼び名だけは知っている。緑の大魔術師と森の大魔術師。
 そういえば、彼らも師弟という話だったかもしれない。懐かしい記憶を辿っていると、心底嫌そうに彼は断じた。

「なにが魔力は国のものだ。自分のものに決まっているだろう」
「なんというか、きみはこの国に生まれてよかったね」

 そういうところ、きみの話にたびたび出てくるビルモスさまに似ているよ、との指摘は呑み込む。エリアスは不敬にも苦手がっているが、同族嫌悪というやつかもしれない。

「どういう意味だ」
「額面通りそのままの意味だよ」

 あるいは、幼少のころから能力の高い師匠に従事していれば、傍若無人な性格にも改善の見込みはあったのだろうか。

 ……いや、ないな。

 なにせ、エリアスだ。小さかったころから謎に自信満々で、頑固。こうと決めたら、自分が納得するまで折れることはない。
 つまり、なにがどうなって自分を「好き」と言ったか知らないが、撤回する発言を聞いていない以上、変わっていないだろうということ。
 エリアスと再会してからの三ヵ月で、自分が学んだすべてである。