君の心が聴けた日を記念日としよう

幼少期の記憶はうっすらと残っている。

俺には確か母さんが2人いる。

1人目の母さんは雨の日の夜。寝ている俺の頬にキスをして家を出て行った。眠い目を擦りながら僅かに見えた後ろ姿。それが1人目の母さんの最後の姿だった。

なぜ出て行ったのか。

それは会社の同僚との不倫だった。父さんに不倫がバレて、慰謝料を請求されこっそりと逃げたらしい。

その行方は俺も知らない。

確かに夫婦仲は悪かったような気がする。顔を合わせれば喧嘩ばかり。毎日毎日怒鳴り声が聞こえ、正直怖かった。家はあっても居場所が無かった。

最初は母さんがいなくなって寂しかったけれど、今思えば離婚してくれてよかったとも思っている。 

2人目のお母さんは今も家にいる。

ある日突然、父さんが連れてきた。「新しいお母さんになる人だよ」って。

新しいお母さんは言った。「慎太郎くんよろしくね。西田真由子って言います。あ、これからは立石かな?」って。父さんとその女の人は2人で笑い合っていた。

母親というものに良い印象を持っていなかった俺は最初はかなり警戒した。余計なことをしたらいつでも家から追い出してやろうと思ってた。

ただ子供の頃の俺は単純で優しくされたり、おもちゃを買ってくれたり。それだけではない。血が繋がっていない俺に本当の息子のように接してくれた。時々怒られることもあったけど、それもいつしか愛に感じていた。

あっという間に新しい母さんのことが好きになった。

前の家族の形とは違う。居場所がなくて気まずく感じることがない。新しい家族は笑顔が絶えないとても居心地の良いものだった。