冷たい夜には抱きしめて

「お疲れ様でしたー!」


タイムカードを機械に通すと、打刻音がカチャンと快く鳴り響いた。

時計の針は午後八時四十五分。

上がりの時間は午後九時だったが、店長のご厚意で「少し早めに着替えて行きな」と上がらせてもらえたのだ。


「店長、上がらせてもらいます! ありがとうございます!」

「いいよいいよ、楽しんでおいで。伊吹くんによろしくね」

「はーい! 行ってきまーす!」


女子更衣室に飛び込み、コインロッカーを開ける。

丁寧に畳んでおいた水色のワンピースを取り出し、素早く身を包んだ。スニーカーから小綺麗なパンプスに履き替え、鏡に向かう。


薄く口紅を塗り直し、髪を整える。

「……うん、よし!」

鏡に映る水色のワンピース姿の自分に、小さく頷く。


『フェリーチェ』から伊吹との待ち合わせ場所である駅前のレストランまでは、徒歩で十五分ほど。着替えを済ませた今、時間は十分に間に合う計算だ。


(伊吹、もう店に着いてるかな。伊吹の真面目な性格を考えれば、きっともう店の前で待ってるかもしれない)


バッグを抱え、従業員口のドアを押して外に出た。

ファミレスの裏手にある駐車場は、夜の深い暗闇に包まれていた。隣の休耕地から虫の声だけが響いている。


「寒っ……」


肩をすくめ、自分の車へと歩を進める。

バッグから車の鍵を取り出し、ドアノブに手をかけた——まさにその瞬間。





——ザッ。





背後で、砂利を踏みしめる荒い足音がした。