冷たい夜には抱きしめて

金曜日の午後。


凪はバイト先であるファミリーレストラン『フェリーチェ桜ヶ丘店』に出勤していた。

トートバッグの中には、大切に畳んだあの水色のワンピースが忍ばせてある。バイトが終わったら、更衣室でこれに着替えてそのまま待ち合わせ場所へ直行する計画だ。


「ちょっと凪さん、さっきからニヤニヤしすぎですよ〜。不審者レベルです」

ハンディ端末を片手に、後輩のバイト女子が呆れ顔で声をかけてきた。


「えっ、嘘!? 私、ニヤニヤしてた!?」

「してました! パフェ運んでるときも、ドリンクバーの補充してるときも、ずっと鼻歌まじりで怪しかったです。……あ、さては今日、伊吹さんとのデートですね?」

「ピンポ〜ン! 正解! よくぞ聞いてくれました!」


待ってましたとばかりに凪が親指を立てると、後輩は「はぁー」と大げさに溜息をついた。


「はいはい、凪さんの惚気タイム入りました〜。店長、助けてください〜」

「こらこら、仕事中に遊ばない。……でも凪ちゃん、今日は朝からずっとソワソワしてるよねぇ」

事務所からシフト表を持ってきた店長まで苦笑いを浮かべて参戦してくる。


「だって聞いてくださいよ店長! 今日は駅前のちょっとお高めなイタリアンに行くんです! 伊吹が予約してくれたんですよ!? あの不器用な伊吹が!」

「へえ! あそこのお店かなー? 伊吹くんも張り切ったなぁ」

「でしょ!? だから私、絶対遅刻なんてできませんから! 普段は5分前行動の伊吹を待たせるわけにはいかないんです! むしろ私が15分前に着いて『遅いぞ伊吹〜!』ってからかってやる計画なんですから!」

「はいはい、気合が入ってるのは分かったから、上がり時間まではしっかり働いてね」


店長に突っ込まれ、後輩からは「惚気ごちそうさまでした〜」と呆れられながらも、凪の心は弾んでいた。


接客中も、お冷を補充しながらも、頭の中は今夜のことでいっぱいだった。