元・最強兵器たちの、あまりに静かな余生について






夕方。太陽は傾き、眩しい橙色が室内を照らす。
次第に薄暗く消えていき、二人は寝支度を行っていた。
風呂に入る前に包帯を取り、上がってからまた新しいものをつけ直す。
小柄な彼の腕に、その大きさの傷はひどく目立つのだ。
必要ない、もう十分洗った、変える必要はない、と彼は言うのに、アルカの気が済まなかった。
寝室へ移動する廊下で、彼女は前を歩く黒髪を眺めた。

(戦長)

寝巻きとしているクリーム色のスウェットは、小柄な彼をより一層小さく見せる。
落ち着かないように、右腕の包帯をさする彼。

(あなたは、無茶ばかりしている。……いつも、そう)

雨が降れば、古傷が痛むのか、動けなくなる時がある。
この間もそのせいか、熱に浮かされていた。
そんな彼を見るのは、初めてだったから。
アルカはひどく動揺した。

そうしたら彼は、そんな彼女に気づいて、気を遣った。
心配するなと。大丈夫だ、と。

あの時、なんと返せばよかったのだろう。

気がついた時には、涙が頬を濡らしていた。
戸惑ったような、焦ったような彼の顔が、今でも思い浮かぶ。
あなたはどうして、無理ばかりするの。

貴方たちはーーー


「おい、どうした?腹でもいてぇのか?」

立ち止まったアルカに気がついたのか、彼は訝しげに彼女を見上げていた。

「違います。あなたが、わがままで困ると思っていただけです。」
「はぁ?」

訳がわからない、とでも言うように彼は眉を寄せ、ベッドへと移動する。
彼が歩くと少しだけ軋む床が、確かに彼の存在を示していた。

(ちゃんと、ここにいる……)

黒い髪。雑に乾かしたせいか、所々跳ねている。
かつて戦場で血濡れていた彼の手は、柔らかな布団の布地を掴む。

今は、私がこの人を守る。
守れなかった数多くの命の代わりに。
今、目の前にあるこの尊い灯火だけはーー絶対に、守る。
彼女は、布団をかぶって、背を向ける彼の頭を優しく撫でた。




あなたの、日常が、どうか。



*



翌朝。
小さな天窓から差し込んだ朝日が、古びた板張りの床をくすぐるように部屋を照らし、彼女は目を覚ました。
二人並んでも、少し余るほどの大きなベッド。
白いシーツの上に丸まる、元上官の姿。
今では見慣れた、かつてなら一切目にしなかった、00の寝顔。
すぅすぅと穏やかな寝息を立てる彼は、自分よりもずっと幼く見える。

(私より小さいし。チビなくせに、意地だけは立派)

前髪をすくうと、彼は「ん…」と眉を寄せて身を捩った。
その拍子に、彼女は彼の細身な首筋へと手の甲を滑らせる。
アルカの習慣となった、体調確認だった。
一度、彼が盛大に体調を崩し、夜中に激しく戻してからは、寝室を同じにしていた。
最初は「お前な、俺は男だぞ」と随分渋った彼だったが、彼女の頑固な押しには勝てず、彼女も毛頭ゆずる気はなく、この形に落ち着いた。
手の甲から伝わった温度は、平穏そのものだった。
アルカは彼に熱がないことを確かめると、満足げに口元を綻ばす。

(……もう少し、寝かしておこう)

そろりと、ベッドを沈ませないように、足を忍ばせて板敷を踏んだ、その時。

「んっ……」

彼女の気配が消えたことに気づいたのか。
彼は小さく無防備な声を漏らし、彼女の温もりが残る場所へと、寝返りを打った。