元・最強兵器たちの、あまりに静かな余生について



2


夕方。太陽は傾き、眩しい橙色が室内を照らす。
次第に薄暗く消えていき、二人は寝支度を行っていた。
風呂に入る前に包帯を取り、上がってからまた新しいものをつけ直す。
小柄な彼の腕に、その大きさの傷はひどく目立つのだ。
必要ない、もう十分洗った、変える必要はない、と彼は言うのに、アルカの気が済まなかった。
寝室へ移動する廊下で、彼女は前を歩く黒髪を眺めた。

(戦長)

寝巻きとしているクリーム色のスウェットは、小柄な彼をより一層小さく見せる。
落ち着かないように、右腕の包帯をさする彼。

(あなたは、無茶ばかりしている。……いつも、そう)

雨が降れば、古傷が痛むのか、動けなくなる時がある。
この間もそのせいか、熱に浮かされていた。
そんな彼を見るのは、初めてだったから。
アルカはひどく動揺した。

そうしたら彼は、そんな彼女に気づいて、気を遣った。
心配するなと。大丈夫だ、と。

あの時、なんと返せばよかったのだろう。

気がついた時には、涙が頬を濡らしていた。
戸惑ったような、焦ったような彼の顔が、今でも思い浮かぶ。
あなたはどうして、無理ばかりするの。

貴方たちはーーー


「おい、どうした?腹でもいてぇのか?」

立ち止まったアルカに気がついたのか、彼は訝しげに彼女を見上げていた。

「違います。あなたが、わがままで困ると思っていただけです。」
「はぁ?」

訳がわからない、とでも言うように彼は眉を寄せ、ベッドへと移動する。
彼が歩くと少しだけ軋む床が、確かに彼の存在を示していた。

(ちゃんと、ここにいる……)

黒い髪。雑に乾かしたせいか、所々跳ねている。
かつて戦場で血濡れていた彼の手は、柔らかな布団の布地を掴む。

今は、私がこの人を守る。
守れなかった数多くの命の代わりに。
今、目の前にあるこの尊い灯火だけはーー絶対に、守る。
彼女は、布団をかぶって、背を向ける彼の頭を優しく撫でた。




あなたの、日常が、どうか。



*



翌朝。
小さな天窓から差し込んだ朝日が、古びた板張りの床をくすぐるように部屋を照らし、彼女は目を覚ました。
二人並んでも、少し余るほどの大きなベッド。
白いシーツの上に丸まる、元上官の姿。
今では見慣れた、かつてなら一切目にしなかった、00の寝顔。
すぅすぅと穏やかな寝息を立てる彼は、自分よりもずっと幼く見える。

(私より小さいし。チビなくせに、意地だけは立派)

前髪をすくうと、彼は「ん…」と眉を寄せて身を捩った。
その拍子に、彼女は彼の細身な首筋へと手の甲を滑らせる。
アルカの習慣となった、体調確認だった。
一度、彼が盛大に体調を崩し、夜中に激しく戻してからは、寝室を同じにしていた。
最初は「お前な、俺は男だぞ」と随分渋った彼だったが、彼女の頑固な押しには勝てず、彼女も毛頭ゆずる気はなく、この形に落ち着いた。
手の甲から伝わった温度は、平穏そのものだった。
アルカは彼に熱がないことを確かめると、満足げに口元を綻ばす。

(……もう少し、寝かしておこう)

そろりと、ベッドを沈ませないように、足を忍ばせて板敷を踏んだ、その時。

「んっ……」

彼女の気配が消えたことに気づいたのか。
彼は小さく無防備な声を漏らし、彼女の温もりが残る場所へと、寝返りを打った。