高嶺の花くんは隣のあいつが気になる。

分からないことはとことん調べる。
それが花村麗。

便利な世の中になった。
あんなに苦戦していたスマホも、今は完璧に使いこなしてる。
アラームにスケジュール、メモ、電卓、カメラ。
フリック入力?も、お手の物だ。

机の下でスマホを操作する。
廊下を歩いてるときに言われた言葉。

「花くん、今日もビジュ神ってる」

検索欄に入力する『びじゅかみってる』
ほうほう……?
分かったような、分からないような。
もう一度入力したのは『ビジュ』
なるほど、『ビジュアル』のことか。

また親指を滑らせる。
『おわこん』
こっちはあんまりいい言葉じゃないらしい。
勝手に盛り上がって、勝手に冷めていく。
何かに似ているな。
でも、それが何かは分からなかった。

もう一度。
でも、今度は入力するのに時間がかかった。
『鍵マークがついた写真』
金魚すくいのポイみたいなマークを押そうとして、親指の動きが止まる。
『オワコン』みたいな感じだったら嫌だな。
指を落とす。
画面はいつもの空の写真に変わった。
いびつなハート型の雲が浮かんでいる。
……今日はもう調べなくていいや。

「花村、おはよ」

「おはよう」

「今日は忘れ物してない?」

「たぶん」

涼太が座ると、木の椅子が軋む。
いつも座り方が荒っぽい。

「なんかあったら俺に言いなよ」

「涼太、寝癖」

「ん?あぁ」

かっこいいセリフが台なしだ。
ぴょこんと飛び出た寝癖。
おじぎしてるみたいで、ちょっと可愛い。
涼太は全然関係ないところを撫でつけている。

「直った?」

「直ってない」

「直してよ」

「……直さなくていいよ」

「なにそれ。おもしろ」

あ、右頬にエクボ。
朝から見れるなんて、今日はいいことがあるかもしれない。
お菓子のレアな絵柄とか、丸いアイスに潜んだ星型とか、そういうのをつい探してしまう。

「涼太ってかっこいいの?」

「さぁ?」

「言われてた。体育のとき」

「花村が言われたんじゃないの?」

「僕ってかっこいい?」

「世間一般から見れば」

「じゃあ、可愛い?涼太から見て」

涼太は答えなかった。
ただ、僕の顔を見つめている。
猫のまねでもしてみようか?
少しは可愛く見えるだろうか。
そんなことを考えてるうちに、涼太の顔が赤くなってきた。
そういえば、夏服だ。
今日から衣替えの移行期間だった。
僕は止めていた息を吐き出して、黒板を見た。

「もういいよ」

「花村は?」

「え?」

「花村から見て、俺はかっこいい?」

僕のぱっちりした二重とは違う、切れ長の二重。
僕を見つめる目が、ふいに細められた。
正直、かっこいいと思う……けど。
涼太のかっこよさはまた違うところにある気がして、視線を彷徨わせる。

「……エクボ」

「えくぼ?」

「エクボが、かっこいい」

「……そう?初めて言われた」

僕から顔をそむけるように頬杖をつく。
白の半袖ワイシャツ。
短く刈り上げられた襟足が、少し日焼けしている。
また猫を追っていたんだろうな。

「涼太、笑ってよ」

「今は無理」

「なんで?」

「普通に照れる」

照れる?
てれる、テレル、照れる………
無意識にスマホの画面を光らせる。
でも、たぶん答えはそこにない。
僕の顔が熱くなった理由も、きっと検索しても分からない。

「調べるの禁止」

小さく呟く。
自分に言い聞かせるみたいに。

僕も明日から夏服にしよう。
誰にも見えない机の下で、そっと拳を握った。