高嶺の花くんは隣のあいつが気になる。

花村麗と福留涼太。
恋人になってから一ヶ月が過ぎた。

少女漫画だったら、めくるめく甘い日々が待っていたのかもしれない。
――それなのに。
歩道にしゃがんで、両手で頬杖をつく僕。
ぼーっとそんなことを考えていると、「パシャ、パシャ」とシャッター音が鳴った。
かれこれ三十分。
何枚撮るつもりなのか。
僕に丸めた背中を向けて、徐々に前進していく涼太。
その先には鍵しっぽ。
涼太の後ろ姿が面白くて、わざととがらせた唇が、つい緩みそうになる。

「涼太ぁ、まだぁ?」

「……うん」

空返事。
大事な恋人様に向かって、その態度はないんじゃないの?
あーあ、猫はまだ僕のライバルとして君臨するつもりみたい。
でも、僕は知っている。
日に日に増えている鍵マークの写真。
それが、涼太にとって『宝物』だということを。

「お待たせ」

「遅いよ!」

頬を紅潮させて戻ってきた涼太。
ますます唇をとがらせる僕を、腕を引っ張って立たせる。
僕の足はすっかり痺れていた。
もしかして……僕、浮いてたりする?
気になって下を見たら、そのまま地面が近づいてくる。
人間って頭が一番重いらしい。
危機的状況に、そんな豆知識がよぎった。

「おっと!」

ポスッ。
涼太の硬い胸に、僕の鼻がぶつかって弾んだ。
僕のライバルのにおいなんかさせちゃって。
おでこをぐりぐりと擦りつける。

「……痛い」

「大丈夫?」

「涼太のせい」

「うん、俺のせい」

涼太の手が僕の頬を包む。
抵抗する間もなく上を向かされる。
僕の顔を確認する涼太の目は、真剣そのもの。
それなのに、僕はまた違うことを考えている。

「鼻、赤くなってる。おでこもちょっとだけ」

「もう、やだ」

鼻に落ちた柔らかい感触。
涼太は顔を離すと、片側の口角を上げた。

「やだった?」

「……ばか」

「ばかでいいよ」

「……足りないよ、ばか」

ふふっと笑った涼太の右頬。
よく見ようと目をそらした僕の唇に、甘い熱が降ってくる。
一回、二回、三回……
そっと目を開けると、とろけるような視線とぶつかった。

「麗、顔真っ赤」

「りょ、涼太だって!」

「可愛い……」

心臓が跳ねる。
もしかしてこれって、めくるめく甘い日々だったりするのかな。
また顔が近づく。
鼻の先が触れる……

「みゃあ」

二人して、バッと振り向く。
僕のライバルがもう一度「みゃあ」と鳴いて、不敵に目を細めた。