「好きやで」って言って!

 開会式が終わり次第すぐに来るという浅野の家族を迎えに行こうと、広報の仕事を終えるなりすぐにテントから飛び出す。
 クラス陣営に戻る途中だったらしい浅野はひときわ背が高いのですぐに見つけられ、駆け寄ると、あっちもわたくしに気が付いて「あっちあっち」と駐輪場のほうを指さした。
 小さい子どもを三人、となりに少年を連れた父親らしき人が歩いてくる。
 浅野が手を振ると、すぐに気づいて手を振り返した。弟くんだけ棒立ちだったので思春期らしい。
 駆け寄っていくと、浅野とは全く似ていない(失礼かもしれない)柔和でやさしそうなお父さんだった。ただし背がデカい。ここから遺伝子がきたんだろうなと思いつつ挨拶を済ませる。
「麻住恵司です。浅野とは友人で」
 会釈すると、お父さんはいつも聞いてます、と微笑んだ。浅野がへへ、と誤魔化すように笑うので横目に見る。
「なんや、変なこと言ってへんやろな」
「言ってないよ。からかい甲斐があるとは紹介したけど」
「意外と親御さんからの心象気にするタイプやぞこっちは」
 二人で軽くプロレスをしながら校庭に出る。
 向こう側からわたくしの家族も向かってきていて、おおい、と手を振ってみると兄が気付いて駆け寄ってきた。革靴なのによく走れるものだ。
 兄二人は浅野のお父さんと軽く挨拶をした後、待ちきれないとでも言うように浅野の弟たちに手を振る。二人とも子どもが好きなのだ。
「どうも、恵司の兄です~!」
「きみが浅野くんだね。こっちが弟さんたち? ごめんなあ、お兄ちゃんたち怖いかなあ」
「ひゃーっ、おめかしして可愛いねえ」
 すぐに懐き始めた家族を見ながら、複雑な気持ちになっていると、浅野が「そろそろ障害物競走だし応援しに行こ」と手を引いた。すぐに指が絡んでくるので、ちょっとびっくりしながら握り返す。
「じゃあ、ちょっと応援しに行ってくるね!」と浅野。
「いってらっしゃあい!」
 リンちゃんが元気に返し、上の兄に抱きかかえられているゆかりちゃんもなにがなんだかわからない顔で手を振ってくれた。
 細山が大声で応援している傍ら、応援服の学ランを上から羽織っている浅野の頭にハチマキを結んでやる。
「いや、しゃがまなくていいの助かるよね」
「わたくしを身長でしか判断していないな? さては」
「そんなことないよ」
 おもむろに浅野の手がわたくしの頭を撫でて、髪をちょいちょい、とくすぐる。
「いや、ほんと、似合ってる。すごいかっこいいよマスミちゃん」
「……あなたもね、すごくかっこいいよ」
「やだなあ、照れちゃうね」
 あんまり本気で思っていなそうな浅野の背中を叩いて、はやく応援団と合流しろと喝を入れた。
 次々と出てくるプレイヤーが順調に好成績を残しながら、総合順位三位以内に食い込んでいる。三年生の本気度はすごいけれど、もしかしたら優勝できるのではないかと応援しながら田原さんと笑い合った。
 次いで、浅野が出場する借り物競争になった。
 うちの高校は、キャラものの靴下を履いている人、とか、朝にきゅうりを食べてきた人、とか、なかなか見つからないコアなお題も多いので名物となっている。かく言うわたくしはなにも対策をしてきておらず、隣に座っていた田原さんが「みてピカチュウの靴下履いてきた」と自慢するのを、すごいですねえ、とおだてていた。
 一年、二年のターンが終わり、三年生の番になる。浅野は注目の的だろうとぼんやりと思っていた。風の噂では『好きな人』というお題もあるらしい。
「幼なじみとか来たらウチ終わるんだけど」
「キャラ靴下のところに突っこんでいけば追われないですよ」
「キャラ靴下待ち望みマ?」
 田原さんと駄弁りながら浅野のことを見ていたら、彼はお題を確認するなり迷わずにこちらへ向かってきた。
 とたんにギャアギャアとうるさくなる外野に田原さんが顔を顰める。
「もしかして本当に幼なじみ来たんじゃないですか?」
「だとしたら麻住でも大丈夫からそのときはお願い」
「え、ねえそんなわけないでしょう!?」
 正気ですか!? と騒ぎ立てていると、ついに浅野がわたくしたちの前まで来た。
「マスミちゃん!」
「――わたくし!?」
 そう! と頷いていつもみたいに手を差し出してくる。渋って、んにぇぇ、と寝床を邪魔された猫みたいな声が出た。浅野がまなじりを緩める。どんな顔ですか。
 差し出された手を、渋々、掴んでみる。ぐい、と一気に引き上げられて、隣に並んだ浅野が意地悪な顔で笑う。
「全速力な!」
 そんな安い挑発に乗らないわたくしではないので。
「言われなくても!!」
 バスケ部のエースと野球部のキャプテンによる爆走ってすごいんだなって思ったよね、とのちのち田原さんに言われた。先に走っていた人たちをぐんぐん飛ばして司会者のところへと辿り着く。
 そういえばお題を知らなかったな。
 浅野がお題の紙を司会者に渡す。そこで審査が行われるらしい。審査員はちょっとだけびっくりしたようにわたくしを見て、それからオッケーサインを出した。
「では、三年プレイヤー浅野くんのお題は『お気に入りのもの』! 審査が通りましたので一位通過となります~!」
 会場が、その声に一気にざわめいて、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
 ――お気に入りのもの。
「いや、あなたのものではないんだがァ!?」
「でもおれマスミちゃんのこと好きだもん」
「それなら『好きな人』のお題で連れて来いよ!」
「えっ連れてきていいの!?」
「ダメですけどぉ!?」

「痴話喧嘩はあとでお願いします、避雷針コンビ〜」
 総合司会者のアナウンスに会場がどっと沸いた。ぜったいうちのクラスだろ。