中学校に上がった頃、私たちの関係はさらに少しずつ変化していった。
『思春期』という、誰もが他人の目を気にし始める逃げられない時期。
誰と誰が付き合っただとか、誰が誰を好きだとか、教室はいつもそんな些細な噂話でもちきりだった。
「三人って、いっつも一緒にいるけどさ。実際どうなの?」
クラスの女子にそんな風に聞かれるたび、私は愛想笑いで誤魔化すことしかできなかった。
もう、子どもの頃のように「ただの幼馴染だから」という言葉だけでは、すべてを説明できなくなっていた。
そんなもやもやを抱えたまま迎えた、二月のこと。
もうすぐバレンタインという時期に、私と凛は、凛の家で恭弥に渡すためのチョコレートを一緒に作っていた。
「糸ー!そっちの湯煎の温度、高すぎない? チョコが分離しちゃうから気をつけてね」
「あ、うん……! ごめん」
凛の家のキッチン。
凛は手際よくボウルを扱い、テキパキと準備を進めていく。
お菓子作りなんてほとんどしたことがない私とは大違いで、私はただただ圧倒されていた。
「凛はすごいね。なんでもできちゃうんだね」
本気で感心して呟くと、凛はふふっと楽しそうに笑って、私の頭を軽く小突いた。
「私は糸のお姉さんみたいなもんだからね。なんでもできなくちゃ、いざというときに糸を守れないでしょ?」
屈託のない、いつもの優しい笑顔。
凛は本気でそう言ってくれている。それはよく分かっている。
だけど私の胸の奥は、どこか冷たい風が吹き抜けたように、少しだけザワザワとした。
守る、か。
子どもの頃から、私を守ってくれるのはいつも恭弥だった。
それなのに、凛のその言葉は、まるで「私が恭弥の代わりに糸を守るから、糸は大人しく守られていて」と言われているような、奇妙な圧迫感を感じさせたのだ。
私はそのザワザワを必死に押し殺しながら、溶けたチョコレートを小さなカップへと流し込んだ。
シリコンの型に落ちていく黒い液体を見つめながら、耐えきれなくなって、ずっと聞きたかった言葉を口にする。
「ねぇ、凛」
「ん? なに?」
「凛は……恭弥のことが、その……好きなの?」
キッチンの換気扇の音だけが、やけに大きく響いた気がした。
トッピングのナッツを刻んでいた凛の手が、一瞬、ピタッと止まる。
心臓が嫌な音を立てて脈打った。
けれど、凛はすぐにいつもの調子を取り戻し、何食わぬ顔で私を振り返った。
「……え? 好きだよ? それは糸も同じでしょ?」
小首を傾げて、からっとした笑顔で答える凛。
その言葉の「好き」が、幼馴染としての親愛の情を指しているのだと、私は勝手に解釈した。
「……うん。そうだよね」
私は大きく息を吐き出し、胸の奥をなでおろした。
凛も私と同じ。恭弥のことは「大切な幼馴染」として好きなだけなんだ。
――そう思って、私は心からホッとしていた。
凛の瞳の奥にある、気が付かない小さな動揺を
そのときの私は、まだ、まったく気づいていなかった。



