「ぎゃあぎゃあ煩いなぁ、結月。俺はそんなんとちごて、その子に用事あんねん」
響矢は結月の抗議をひらりといなし、長い足を動かしてズカズカと迷いのない足取りで糸の目の前へと迫った。
「え、ちょっと……あのっ」
あまりの距離の近さに、糸は驚いて完全に固まってしまう。
響矢は一歩も引かないまま、面を外したばかりの糸の顔を至近距離からじっと覗き込んできた。汗に濡れた前髪の奥で、吸い込まれそうなほど切れ上がった瞳が真っ直ぐに糸を捉える。
「うん! あんたやっぱり、めちゃくちゃ可愛ええなぁ!! さっきの剣道さばきも見事やったし! 名前、教えてぇーや!」
そう言うや否や、響矢は糸の白くて細い片手を、自分の大きな掌でぎゅっと包み込むように握りしめてきた。
突然のフランクすぎるボディタッチと直球の言葉に、糸の頭はさらにパニックを引き起こす。けれど、彼の強引なペースに巻き込まれるようにして、唇からポロリと自分の名前がこぼれ落ちた。
「逢沢、糸……」
「糸ちゃんか!! なんやそれ、名前まで可愛いやんか!」
糸の名前を耳にした瞬間、響矢は顔全体の筋肉を緩め、ぱあっと弾けるような、眩しい太陽みたいな笑顔を見せた。
「っ……!」
その瞬間、糸の脳裏に強烈なデジャブが突き刺さる。
『糸が大切で、大好きだからだよ!』
あの幼い日、保育園の砂場で恭弥が自分に向けてくれた、世界で一番大好きだったあの太陽の笑顔。
東京に残してきたはずの、切なくて、痛くて、泥泥としたあの日の辛い記憶が一気に濁流となって押し寄せてくる。
(恭弥……っ)と、胸の中でその名前を叫びそうになった。
しかし、糸の心はすぐに激しい違和感に襲われる。
目の前にいる少年は、恭弥と顔も名前も笑顔の形も瓜二つなのに、中身が決定的に違っていた。
面倒見がいいけれど自分の気持ちには不器用で、どこか一歩引いたところのあるお兄さんタイプの恭弥。
それに対して、この東雲響矢という男子は、初対面の女子の手を躊躇なく握り、人懐っこい関西弁で「可愛いなぁ」と堂々と言い放つ、どこまでも自信に満ち溢れた様子だった。
恭弥からは絶対に想像もつかないこの響矢の強烈なギャップに、糸の脳はまったくついていくことができない。
「(全くの別人……だよね? ……でも、似すぎだよ……)」
響矢に握られたままの自分の片手を見つめながら、糸は困惑と切なさが入り混じった複雑な感情に支配され、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
忘れるために逃げてきたはずの初恋の残像が、あまりにも違う色を纏って目の前に現れたことに、糸の胸は再び、締め付けられるように苦しくなっていった。
響矢は結月の抗議をひらりといなし、長い足を動かしてズカズカと迷いのない足取りで糸の目の前へと迫った。
「え、ちょっと……あのっ」
あまりの距離の近さに、糸は驚いて完全に固まってしまう。
響矢は一歩も引かないまま、面を外したばかりの糸の顔を至近距離からじっと覗き込んできた。汗に濡れた前髪の奥で、吸い込まれそうなほど切れ上がった瞳が真っ直ぐに糸を捉える。
「うん! あんたやっぱり、めちゃくちゃ可愛ええなぁ!! さっきの剣道さばきも見事やったし! 名前、教えてぇーや!」
そう言うや否や、響矢は糸の白くて細い片手を、自分の大きな掌でぎゅっと包み込むように握りしめてきた。
突然のフランクすぎるボディタッチと直球の言葉に、糸の頭はさらにパニックを引き起こす。けれど、彼の強引なペースに巻き込まれるようにして、唇からポロリと自分の名前がこぼれ落ちた。
「逢沢、糸……」
「糸ちゃんか!! なんやそれ、名前まで可愛いやんか!」
糸の名前を耳にした瞬間、響矢は顔全体の筋肉を緩め、ぱあっと弾けるような、眩しい太陽みたいな笑顔を見せた。
「っ……!」
その瞬間、糸の脳裏に強烈なデジャブが突き刺さる。
『糸が大切で、大好きだからだよ!』
あの幼い日、保育園の砂場で恭弥が自分に向けてくれた、世界で一番大好きだったあの太陽の笑顔。
東京に残してきたはずの、切なくて、痛くて、泥泥としたあの日の辛い記憶が一気に濁流となって押し寄せてくる。
(恭弥……っ)と、胸の中でその名前を叫びそうになった。
しかし、糸の心はすぐに激しい違和感に襲われる。
目の前にいる少年は、恭弥と顔も名前も笑顔の形も瓜二つなのに、中身が決定的に違っていた。
面倒見がいいけれど自分の気持ちには不器用で、どこか一歩引いたところのあるお兄さんタイプの恭弥。
それに対して、この東雲響矢という男子は、初対面の女子の手を躊躇なく握り、人懐っこい関西弁で「可愛いなぁ」と堂々と言い放つ、どこまでも自信に満ち溢れた様子だった。
恭弥からは絶対に想像もつかないこの響矢の強烈なギャップに、糸の脳はまったくついていくことができない。
「(全くの別人……だよね? ……でも、似すぎだよ……)」
響矢に握られたままの自分の片手を見つめながら、糸は困惑と切なさが入り混じった複雑な感情に支配され、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
忘れるために逃げてきたはずの初恋の残像が、あまりにも違う色を纏って目の前に現れたことに、糸の胸は再び、締め付けられるように苦しくなっていった。



