そんなこんなで、あっという間に日一日は過ぎ、待ちに待った土曜日がやってきた。
花園高等学園の広々とした武道場には、今日の合同練習試合のために集まった他校の生徒たちの熱気と、竹刀が擦れ合う独特な匂いが立ち込めていた。
女子剣道部のリーダーである結月は、試合開始を前にチームの部員たちを円陣にまとめると、その中央に糸を招き入れた。
「皆、ちょっと聞いて! 急遽、頭数として来てもらったこちらは、外部生の逢沢糸ちゃん。今回は補欠登録やから、試合への出番は約束してへんねんけど、昔ちょっと剣道やってたらしいからめっちゃ頼もしいで! 皆、よろしゅうしてな!」
結月がポンと糸の背中を叩きながら、弾んだ声で部員たちに紹介した。
糸は、東京を去って以来、本当に久しぶりに身に纏った紺色の道着と袴の感触に、どこかソワソワと落ち着かない気持ちでいた。けれど、道場に漂うピンと張り詰めた空気を吸い込むと、かつて死に物狂いで戦っていた頃の感覚が自然と呼び覚まされる。糸は背筋をキリッと伸ばし、澄んだ瞳で部員たちを見つめた。
「逢沢糸です。結月に頼まれて急遽、仲間に入ることになりましたが、出来ることは精一杯サポートするので、よろしくお願いします!」
糸が凛とした笑顔で丁寧に頭を下げると、部員たちの間で「わぁ……」と小さく感嘆の声が漏れた。
「糸ちゃん、紹介するなぁ。こっちの子らは今日のトーナメント戦の戦友やで!」
結月は嬉しそうに、隣に並ぶ部員たちを一人ずつ指差していった。
「まずは一組の安藤沙和ちゃん、三組の椎名真琴ちゃん、ほんで五組の柊澪ちゃん!」
「よろしくお願いします」
糸は少し緊張しながらも、一人ひとりの目を真っ直ぐに見つめて、柔らかく微笑みかけた。
すると、紹介された沙和や真琴、そして澪の三人は、顔を見合わせてぱあっと表情を明るくした。
「あ! もしかして、新学期早々に男子の間で『めちゃくちゃ可愛い外部生が来た』って噂になってた子やんなぁ!? ほんまに名前の通り、お人形さんみたいに可愛いやん!」
「ほんまそれ! 噂以上やわぁ。糸ちゃん、これから仲良うしてなぁ!」
「私も、私も!お友達にならしてぇー!」
東京から来た洗練された可憐な糸を前にして、京都の女子部員たちは引け目を感じるどころか、持ち前の人懐っこさで次々と笑顔で手を振ってきた。
他校の強豪選手が集まる完全なアウェイの環境に、糸は内心ガチガチに緊張していた。けれど、結月だけでなく、新しく出会ったチームの仲間たちがこんなにも優しく、温かく自分を受け入れてくれたことに、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
(京都に来て、本当に良かった……。みんなのために、私にできることを頑張ろう)
東京のきしんだ人間関係から逃げ出し、新天地でようやく見つけた自分の新しい居場所。
その温もりに感謝しながら、糸は今日一日、チームの勝利のために全力で動くことを心に誓った。
しかし、女子のチーム体制が整い、いよいよ男子の合同練習試合が始まろうとしていた。
花園高等学園の広々とした武道場には、今日の合同練習試合のために集まった他校の生徒たちの熱気と、竹刀が擦れ合う独特な匂いが立ち込めていた。
女子剣道部のリーダーである結月は、試合開始を前にチームの部員たちを円陣にまとめると、その中央に糸を招き入れた。
「皆、ちょっと聞いて! 急遽、頭数として来てもらったこちらは、外部生の逢沢糸ちゃん。今回は補欠登録やから、試合への出番は約束してへんねんけど、昔ちょっと剣道やってたらしいからめっちゃ頼もしいで! 皆、よろしゅうしてな!」
結月がポンと糸の背中を叩きながら、弾んだ声で部員たちに紹介した。
糸は、東京を去って以来、本当に久しぶりに身に纏った紺色の道着と袴の感触に、どこかソワソワと落ち着かない気持ちでいた。けれど、道場に漂うピンと張り詰めた空気を吸い込むと、かつて死に物狂いで戦っていた頃の感覚が自然と呼び覚まされる。糸は背筋をキリッと伸ばし、澄んだ瞳で部員たちを見つめた。
「逢沢糸です。結月に頼まれて急遽、仲間に入ることになりましたが、出来ることは精一杯サポートするので、よろしくお願いします!」
糸が凛とした笑顔で丁寧に頭を下げると、部員たちの間で「わぁ……」と小さく感嘆の声が漏れた。
「糸ちゃん、紹介するなぁ。こっちの子らは今日のトーナメント戦の戦友やで!」
結月は嬉しそうに、隣に並ぶ部員たちを一人ずつ指差していった。
「まずは一組の安藤沙和ちゃん、三組の椎名真琴ちゃん、ほんで五組の柊澪ちゃん!」
「よろしくお願いします」
糸は少し緊張しながらも、一人ひとりの目を真っ直ぐに見つめて、柔らかく微笑みかけた。
すると、紹介された沙和や真琴、そして澪の三人は、顔を見合わせてぱあっと表情を明るくした。
「あ! もしかして、新学期早々に男子の間で『めちゃくちゃ可愛い外部生が来た』って噂になってた子やんなぁ!? ほんまに名前の通り、お人形さんみたいに可愛いやん!」
「ほんまそれ! 噂以上やわぁ。糸ちゃん、これから仲良うしてなぁ!」
「私も、私も!お友達にならしてぇー!」
東京から来た洗練された可憐な糸を前にして、京都の女子部員たちは引け目を感じるどころか、持ち前の人懐っこさで次々と笑顔で手を振ってきた。
他校の強豪選手が集まる完全なアウェイの環境に、糸は内心ガチガチに緊張していた。けれど、結月だけでなく、新しく出会ったチームの仲間たちがこんなにも優しく、温かく自分を受け入れてくれたことに、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
(京都に来て、本当に良かった……。みんなのために、私にできることを頑張ろう)
東京のきしんだ人間関係から逃げ出し、新天地でようやく見つけた自分の新しい居場所。
その温もりに感謝しながら、糸は今日一日、チームの勝利のために全力で動くことを心に誓った。
しかし、女子のチーム体制が整い、いよいよ男子の合同練習試合が始まろうとしていた。



