男子部員たちからの熱い視線に包まれ、糸は耐えかねてポッと顔を赤く染めた。東京では常に誰かの影に隠れていたため、こうして直球の視線を浴びることにどうしても慣れないのだ。
隣にいた結月は、糸が耳の裏まで真っ赤にしていることにすぐ気が付いた。
「もう、先輩達! 私の友達が可愛いからって、鼻の下伸ばして練習サボったらあかんでしょーが!」
結月が腰に手を当ててぷんぷんと注意すると、面を抱えた先輩たちは「すまん、すまん」「つい魔が差してなぁ」と、デレデレと頭を掻きながら笑っている。そのどこか憎めない男子校ノリのような緩さに、糸は恥ずかしさを通り越して、おのずと苦笑いを浮かべていた。
「ほら、さっさと戻った戻った!」
「へーい」
先輩たちは渋々と道場の中央へと戻っていく。けれど、その背中からは「あーあ、やっぱ東雲がおらんとなぁ」「なんか身ぃ入らんよなぁ」と、ぶつぶつと不満を垂れる声が漏れ聞こえてきた。
それを聞き逃さなかった結月が、道場の床を踏み鳴らして声を張る。
「あいつは昼休みは部活出ぇへんって、最初から言うてましたけどー? 寂しいんやったら、お得意の剣道でボコボコにして説得してみはったらどーです?」
「そら勘弁やな!」
「あいつに竹刀持たせたら容赦ないんやから!」
先輩たちはケラケラと笑い合い、小気味いい音を立てて再び練習を再開した。
竹刀の音をBGMにしながら、糸は先ほどから何度も耳にする名前に、小さく首を傾げた。
「ねぇ、結月。さっきからみんなが言ってる『あいつ』とか『東雲』って人……誰なの?」
「あぁ!」と結月はポンと手を叩き、呆れたように笑った。
「こないだ言うてた、私の腐れ縁のやつ! 昔から剣道だけはほんまに強いねん。口は悪いし態度もでかいねんけど、実力だけは本物や。この間なんか、前キャプテンの先輩を試合でボコボコにしよってん。それで今、一年生やのに剣道部の主将やらされてんねんで。でも性格が気まぐれやからさ、昼休みは『眠い』言うて顔出しよらへんねん。ほんま、全くなやっちゃやで」
「へぇー……す、凄いね……」
糸は素直に目を見開いた。
一年生にして、前キャプテンを圧倒して主将の座に就くほどの天才。
東京でも数々の強豪選手を見てきた糸だったが、京都花園高等学園のレベルの高さと、その『東雲』という人物の規格外さに、改めて「京都の学校って本当に凄んだなぁ」と心から感心していた。
その実力者が、まさか自分を絶望の淵から救い出してくれる運命の相手だとは、この時の糸はまだ知る由もなかった。
「あ、もうすぐ昼休み終わるわ! 糸ちゃん、私着替えてくるから一緒に教室戻ろ!」
「うん、わかった!じゃあ、渡り廊下で待ってるね」
結月の声に引かれるように、糸は熱気あふれる道場に後ろ髪を引かれながら、再び渡り廊下に向かっていた。
隣にいた結月は、糸が耳の裏まで真っ赤にしていることにすぐ気が付いた。
「もう、先輩達! 私の友達が可愛いからって、鼻の下伸ばして練習サボったらあかんでしょーが!」
結月が腰に手を当ててぷんぷんと注意すると、面を抱えた先輩たちは「すまん、すまん」「つい魔が差してなぁ」と、デレデレと頭を掻きながら笑っている。そのどこか憎めない男子校ノリのような緩さに、糸は恥ずかしさを通り越して、おのずと苦笑いを浮かべていた。
「ほら、さっさと戻った戻った!」
「へーい」
先輩たちは渋々と道場の中央へと戻っていく。けれど、その背中からは「あーあ、やっぱ東雲がおらんとなぁ」「なんか身ぃ入らんよなぁ」と、ぶつぶつと不満を垂れる声が漏れ聞こえてきた。
それを聞き逃さなかった結月が、道場の床を踏み鳴らして声を張る。
「あいつは昼休みは部活出ぇへんって、最初から言うてましたけどー? 寂しいんやったら、お得意の剣道でボコボコにして説得してみはったらどーです?」
「そら勘弁やな!」
「あいつに竹刀持たせたら容赦ないんやから!」
先輩たちはケラケラと笑い合い、小気味いい音を立てて再び練習を再開した。
竹刀の音をBGMにしながら、糸は先ほどから何度も耳にする名前に、小さく首を傾げた。
「ねぇ、結月。さっきからみんなが言ってる『あいつ』とか『東雲』って人……誰なの?」
「あぁ!」と結月はポンと手を叩き、呆れたように笑った。
「こないだ言うてた、私の腐れ縁のやつ! 昔から剣道だけはほんまに強いねん。口は悪いし態度もでかいねんけど、実力だけは本物や。この間なんか、前キャプテンの先輩を試合でボコボコにしよってん。それで今、一年生やのに剣道部の主将やらされてんねんで。でも性格が気まぐれやからさ、昼休みは『眠い』言うて顔出しよらへんねん。ほんま、全くなやっちゃやで」
「へぇー……す、凄いね……」
糸は素直に目を見開いた。
一年生にして、前キャプテンを圧倒して主将の座に就くほどの天才。
東京でも数々の強豪選手を見てきた糸だったが、京都花園高等学園のレベルの高さと、その『東雲』という人物の規格外さに、改めて「京都の学校って本当に凄んだなぁ」と心から感心していた。
その実力者が、まさか自分を絶望の淵から救い出してくれる運命の相手だとは、この時の糸はまだ知る由もなかった。
「あ、もうすぐ昼休み終わるわ! 糸ちゃん、私着替えてくるから一緒に教室戻ろ!」
「うん、わかった!じゃあ、渡り廊下で待ってるね」
結月の声に引かれるように、糸は熱気あふれる道場に後ろ髪を引かれながら、再び渡り廊下に向かっていた。



