君を忘れるための春。

新幹線の窓の外、めまぐるしく流れていく景色を眺めながら、私はまぶたを閉じた。
耳の奥で、まだ発車のベルが鳴り響いているような気がする。

目を閉じると、浮かんでくるのは決まって、あの優しくて温かいあの日々の記憶だ。



私と恭弥と凛は、生まれたときからの幼馴染。
同じマンションの同じ階に住んでいて、保育園のもも組のときから、ずっと三人で一緒に育ってきた。

二人はとにかく優しかった。
お姉さんみたいにしっかり者で大人びた凛と、面倒見がよくてみんなのリーダー的存在だった恭弥。
二人に比べて、私は子どもの頃からおっとりしていて、何をやらせても不器用だった。

だからいつも、二人は私の面倒を見るかのように、私を真ん中にして手を引いてくれた。

保育園の園庭で、私が派手に転んで膝を擦りむいたとき。
熱を出して、一人で教室の隅でうずくまっていたとき。

先生よりも誰よりも、いの一番に気づいて駆けつけてくれるのは、決まってあの二人だった。

「いと! 我慢しちゃだめだろ」

眉をひそめて、自分のことみたいに焦った顔で覗き込んでくる、小さな恭弥。

「いーと! しんどいの? 私がおんぶしたげる!」

小さな背中を精一杯丸めて、私の前にしゃがみ込んでくれる、優しい凛。

そのたびに、胸の奥がぽかぽかと温かくなって、涙なんてどこかへ吹き飛んでしまう。

「恭くん、凛ちゃん! ありがとう」

そう言って私が笑うと、二人はホッとしたように顔を見合わせて、私以上に嬉しそうに笑うのだった。

そんな、三人でいるのが当たり前だった日常のなかで。
私の心に、小さな、けれど消えない変化が訪れたのは、あるよく晴れた春の日のこと。

その日は、凛が珍しく風邪で保育園を休んでいた。

「……ん、できた」

一人で砂場に座り込み、小さなスコップで砂の山を作っていた私のもとに、影が落ちる。
見上げると、そこには恭弥が立っていた。

「友達と遊ばないのか?」

恭弥は、私が一人で寂しくしていると思ったのだろう。
他のお友達が元気に走り回る園庭を気にする風でもなく、私の前にすとん、としゃがみ込んだ。

頭上から降り注ぐ太陽の光を背負って、まるでお兄さんのような、安心する顔で私に話しかけてくる。

「恭くんは、みんなと遊ばないの?」
「俺は、糸が一人でいるから来たんだよ。ほら、一緒に山作ろうぜ」

恭弥はズボンの汚れなんて気にせずに、小さな手で砂を集め始めた。
いつもそうだ。恭弥はいつだって、私のことを一番に気にかけてくれる。

ずっと、胸の奥で気になっていたことが、ぽろりと口からこぼれ落ちた。

「なんで、いつも恭くんは、私のことを心配してくれるの?」

砂を握ったまま、恭弥の顔をじっと見つめる。
子どもながらに、ずっと知りたかった。どうして恭弥は、私にこんなにも優しいのだろう、と。