進路の話をしながら、私の少し前を歩く恭弥。
西日に照らされたその大きな背中を見つめながら、私は声にならない言葉を、何度も、何度も、心の中で問いかけていた。
ねぇ、恭弥……知ってる?
私がね、お姉さんぶる凛よりもずっと、ずっと先に、恭弥のことが好きになったんだよ。
保育園のあの砂場の日から、私の瞳は、ずっと恭弥だけを追いかけてきた。
周りの男の子たちからからかわれても、いつも私を守ってくれた、その眩しい太陽みたいな笑顔を、本当は私だけがずっと独り占めしたかった。
ねぇ、もし。もしもだよ?
私がもっと勇敢で、凛よりも先に「好き」って、この溢れそうな気持ちを恭弥に打ち明けていたら……。
私たちの関係は、今とは違うものに変わっていたのかな?
凛の優しい気持ちに甘えて、幼馴染の均衡を壊すことを恐れずに、恭弥と二人で手を繋いで歩く未来があったのかな?
恭弥は、凛じゃなくて、私だけを特別に見つめてくれたのかな……?
答えの出ない「もしも」が頭を巡るたび、視界がじんわりと涙で滲みそうになる。
私はそれを恭弥に悟られないよう、小さく頭を振って目をこすり、駆け足で恭弥の背中を追いかけた。
トトッ、とローファーの音を響かせて追いつくと、恭弥は歩みを緩め、私の大好きな顔で振り返った。
「おーい、おせぇぞ、糸」
ほら、また。
恭弥はそうやって、私が世界で一番大好きな、あの無邪気な笑顔を向けるんだ。
付き合っている凛の時とは違う、私に向けられる、いつもの当たり前のような優しさ。
「ほら、置いてくぞ」
恭弥はからかうように笑いながら、私の大好きな、その大きくて温かい掌を私の頭に置いた。
くしゃくしゃっと、子どもをあやすみたいに優しく髪を撫でる。
(好き。好きだよ、恭弥……っ)
触れられた頭のてっぺんから、甘い熱が全身に溶けていく。
あまりの愛おしさに胸が引き裂かれそうで、私は恭弥の制服の袖を、掠れるほどかすかに指先で握りしめた。
だから、お願い。私を見て。
凛を、見ないで。
私だけを、その太陽みたいな光で照らして――。
親友を裏切るような、こんなにも醜くてドロドロした感情を持ってしまった私を、どうか許して。
「おーい、糸?どうかしたか?」
「……っ、ううん! なんでもない! 行こ!」
恭弥の手をすり抜けるようにして、私は今度は自分が前を走った。
振り返った私の顔が、どんなに泣きそうな歪んだ笑顔になっていたか、恭弥はきっと気づきもしないだろう。
ヒュウ、と私たちの間をすり抜けていった風は、どこか冷たくて。
まだ暑さの残る季節のはずなのに、秋の訪れを知らせるような寂しい風が、私の行き場のない恋心をどこか遠くへ、優しくさらっていった。



