君を忘れるための春。



夏休みが明けた新学期。
恐れていたその日は、あまりにもあっけなく訪れた。

「糸。あのね……私、恭弥と付き合うことになったんだ」

放課後の教室で、少し顔を赤らめながら、でも本当に幸せそうに報告してくれた凛。
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はドロドロに溶けてなくなってしまったんじゃないかと思うほど、激しい痛みが胸を襲った。

苦しくて、息ができなくなりそうな胸を、私は制服の上から必死に押さえつける。
そして、顔の筋肉を限界まで動かして、これ以上ないくらい明るい声を絞り出した。

「おめでとう、凛、恭弥! 私、二人のことが大好きだから、すっごく嬉しい!」

喉の奥が焼けるように熱い。なのに、嘘の言葉は信じられないほど滑らかに溢れていく。

「あ、でもさ、これからラブラブしたくなったら、私に気を使わず二人で帰ったりしていいからね! 絶対だよ?」

――なんで。
なんで、思ってもいない言葉ほど、こんなにポロポロとたくさん溢れ出てくるんだろう。
親友と大好きな人を祝福しているはずなのに、自分の内側がどんどん黒い嘘で染まっていくようで、そんな自分が怖くて、たまらなく悲しかった。

「相変わらず糸のくせに生意気だなー!」

私の張り付いた笑顔の裏にある絶望なんて、これっぽっちも気づいていない恭弥が、いつものように快活に笑った。
そして、私の頭を大きな手でクシャクシャっと、愛おしそうに撫でる。

また、あの太陽みたいな笑顔で。
その無自覚な優しさと笑顔が、今の私の心をどれほどズタズタに引き裂いているかも知らないで。

「……あの、糸」

恭弥の手のひらの下で、私の肩が微かに震えていたのを、凛は見逃さなかった。
お姉さんみたいに察しのいい親友が、少しだけ心配そうな、曇った顔で私を覗き込んでくる。
その罪悪感に満ちた目を向けられるのが、私は一番耐えられなかった。

「凛、気にしないで! 私、本当に嬉しいから!」

凛の言葉を遮るように、私はもう一度、とびきりの笑顔を作って見せた。
これ以上、私に惨めな思いをさせないで、と祈るような気持ちで。

「……うん。糸、ありがとう」

私の必死の演技を見て、凛は少しだけホッとしたような顔を浮かべた。それから、少し照れたように、でも本当に愛されている女の子の顔をして微笑んだ。

それからの二人の距離は、本当に急速に縮まっていった。

「三人」での下校も、週末に「三人」でショッピングモールへ出かけることも、フードコートで手を振り合って席を確保することも、子どもの頃から何一つ変わらないはずだった。

それなのに、二人が楽しそうに目を合わせるたび、私だけが、底の抜けた暗い場所にぽつんと取り残されたような気分になる。
同じ空間にいるはずなのに、二人の周りにだけ、私には絶対に入れない透明な境界線が引かれているのが、はっきりと分かってしまうのだ。

笑えば笑うほど、自分が透明人間に変わっていくような、息の詰まる毎日。

この恋人同士になった二人の隣で、これまで通り「ただの幼馴染」の仮面を被り続けることなんて、今の私には、もう一秒だってできそうになかった。