真っ白なトランプと、強がりな君との答え合わせ

「今日の放課後、沙希は生徒会だから時間取れるよ」
「了解、裏門で」
 僕達は教室では非常に近しい距離にいたが、裏読みトランプをしていることは周囲には秘密だ。できる限りバレるのを防ぐため、皆の前では必要最小限のことを話すだけに留めていた。
そして、僕らの当て合いは空き教室ではなく、帰りがけに軽く話す形へ変わっていった。色んな要因があるが、一番は桐野の存在が大きい。
 星川と桐野は高一から一緒で仲が良いらしく、ことあるごとに桐野が話しかけに来ていた。何気ない雑談や、生徒会活動のこと、今後の選挙についても話している。
 桐野は身長が平均よりも高く、百七十センチの僕とほぼ対等に並ぶレベルだ。髪型は胸の高さ位まで伸びたポニーテールで、きりっとした鼻筋と、洗練された立ち振る舞いがクールな雰囲気を漂わせていた。
 授業中も、星川に劣らず積極的に発表していることが多い。生徒会に所属しているだけあり、成績も優秀で、周囲の模範となるよう努めている。自他に向ける厳しさは折り紙付きで、誰もが認める所ではあるのだが……噂をすれば当人がやってきた。
「愛奈、栄養補給させて~」
「もう、しょうがないんだから」
 時折、休み時間に桐野は星川の席を訪れる。そこで桐野は星川にハグを求め、抱き着くのだ。星川の肩に顎を載せる桐野の頬は緩んでいて、星川にだけは甘々なのがよくわかる。
 しかし、彼女は僕への警戒心を怠らない。ハグを終えて、自分の席に戻る際には僕への睨みを忘れない。まるで、星川は私のものだと言わんばかりの眼光だった。
 別に僕は何もしていない……いや、もしかしたら彼女は僕らの関わりを見ているかもしれない。桐野は廊下側の後ろの席に座っていて、僕らの様子は横を向けば確認することができる。何をしているのかは全く見えていないはずだが、勘づいている部分はあるのだろう。
 まぁ彼女のことはいい。それよりも星川のカードを当てるための策を考えないと。以前は生成AIを駆使して外してしまったし、もうその手は使えない。
 キーンコーンカーンコーン。いつの間にか授業のチャイムが鳴る。僕は勉強ノートを開きながら、裏読みトランプ用のメモ帳を取り出した。

「お待たせ、待った?」
「五分三十秒待った」
「細かい男は嫌われるよ~」
「細かくて結構。もう同じトランプで外したくないからね」
 僕達は裏門の隅で待ち合わせをしていた。僕が先に来て、星川が後で合流する形だ。殆どの人が正門で帰るため、少し時間を置けば人気はなくなる。当て合いをするには悪くない場所で、最近はその場で当て合ってから解散するようになった。
 空き教室がベストではあるものの、桐野が放課後に星川と一緒にいたがる時間が増えたことや、学校の物品の搬入の関係で使いづらくなったのが大きい。
「おーその心意気には高評価あげちゃう。さて、君の答えは決まったかな?」
 彼女は【星川3 👔】を取り出し、僕に見せる。二週間ずっと外し続けてきたカードだった。
「決まったよ、ようやくね。最後に質問いいかな?」
「もちろん」
 星川は以前、休日に制服を着る意味が大事だと言っていた。そこから考えられるのは、休日に制服を着ている人の特徴だ。それは、部活動をやっている人や図書館に行く人等、学校に用事がある人が多くを占める。勿論、塾に行く時や特別な行事で制服を着ることはあるだろうが、高校生のうちにやりたいこと、として当てはまる可能性は低い。
 休日に制服でお出掛けしたい、という骨格はもう当てている。あとはそこにどんな意味が込められているかを考えればいい。
「星川は帰宅部で、いつもすぐに家に帰って家事をしている。でも本当は部活をしたかったんじゃないか?」
 星川は部活に入っていない、というよりできない環境にあるらしい。だが、これまでの彼女の振る舞いを見る限り、運動神経は良い方だし、友人付き合いもしっかりある。家でゴロゴロするタイプでもないだろう。そこから考えた仮説だった。
 彼女は視線を落とし、手いじりをしながら、首を縦に振った。
「うん。部活はやりたかった。別に何がしたいというわけじゃないんだけどさ。憧れるよ、青春って感じがするもん」
「あっさり答えるんだな」
「君の質問には素直に答えるよ」
 星川は顔を上げる。その表情はどこか崩れてしまいそうな、そんな儚さがあった。
「分かった。もうネクタイのトランプへの質問は不要だな」
「うん。答え合わせ、しよっか」

【星川3 帰宅部だけど、休日に制服で出掛けたい 👔】

「正解。やっぱり分かってくれる人がいるのっていいね。グッときちゃった」
 一瞬彼女の目が潤んでいるように見えたが、すぐに後ろを向いてしまう。いつも見ている背中だが、今日はどことなく小さく見えた。
 星川のやりたいこととしては些細なものだが、そこにどれだけの思いが込められているのだろう。想像もつかない。
 彼女がこちらに向き直るといつもの星川に戻っていた。そして、ニヤリと口角を上げ、何やら企んでいる表情を見せた。
「じゃあ実行しようか。次の日曜日に」
「え」
「君のお望み通り、夢の国へいこう。制服で、朝から」
「いやいや、月曜日死ぬって」
「ハイ決定。もう決定、絶対決定。今から楽しみだね。だって、君が言ってくれたことじゃん」
 星川は笑顔だったのに、尋常ではない圧を感じた。AIを使った件、今も根に持っていたようだ。彼女は意思を曲げそうになく、僕は思わず、屈してしまった。
 当日はカチューシャも被り、彼女はご満悦。翌週、僕は筋肉痛で苦しみ、檜山に笑われた。