真っ白なトランプと、強がりな君との答え合わせ

 六月も半ばに入り、窓際一番後ろの席に少し慣れてきたこの頃。窓を見渡せば梅雨前線の影響で分厚い雲が空一面に広がり、雨が音を立てて降っていた。エアコンで教室は除湿されているが、廊下に出た途端にじめじめした蒸し暑さに襲われるので、極力動かないようにしている。
 今は昼休みの時間で、僕は隣の席をジャックしたと話す檜山とご飯を食べていた。
「檜山、そこの席は本当にお前が座っていいのか?」
「いいんだよ、見てみろ。あっちはあっちでよろしくやってるんだから」
 檜山の席は中央の前側の席で、先生と真正面から向き合わないといけない最悪の席だった。だが、檜山が元々座っていた席では、僕の隣にいた女子と同じクラスの男子が仲睦まじく昼食をとっていた。おかずの交換もしていて、幸せムードが漂ってくる。
「お前、世渡り上手いんだな」
「だろ? 何かあったら俺を頼ってくれ。助けになるぜ」
「キャーカッコイイー流石ヒヤマサマー」
「水谷の棒演技も様になってるぜ」
「はいはい」
 そんな軽口を言い合いながらご飯を食べていると、星川を含んだ仲良し女子グループの会話が聞こえてきた。
 ――昼休みは何する?
 ――教室で駄弁るとか?
 ――えー折角なら皆でゲームしたいな!
 ――スマホゲームはダメだからね、学級委員として容認できないし
 星川が席替えをしてからも、変わらず昼休みになったら決まって彼女の席付近に集まっているらしい。以前英語の授業で星川が助けていた花坂さんや、学級委員の桐野もいた。
 席としては星川を中心として三席を他のクラスメイトから一時的に使わせてもらっている形だ。その点、檜山と似たようなものだろう。実は僕の席も同様に借りる対象となったが……
 ――ここは俺らが食べる席って決まってるから。申し訳ないが他を当たってくれ。
 席を借りたいと頼んできた桐野に対し、檜山がハッキリと言ったことで守られた形だ。
 正直檜山には感謝している。この席には思った以上に快適で、昼休みもこのまま過ごしたいと思っていた。それに、星川の情報収集もできる。まぁ、僕の話も彼女に筒抜けだが、仕方ない。
 ――そういえば、水谷君が授業休みでトランプ使ってるのを見たことがあるよ
 ――あー私も見たことある。トランプなら規則的にありじゃない? ね? 沙希ちゃん
 ――ええ、ボードゲーム系は校則で禁止されてないからいいわよ。
 ――誰か持ってる? 持ってないか~なら私が借りれないか訊いてみるよ
 ――えっちょっと……
 星川がこちらを向き、慌てて困惑する表情を浮かべる中、花坂さんが「水谷君、ちょっといいかな?」と言いながらこちらに近付いてきていた。僕は話を一通り聴いていたので何を言われるのかは分かるが、この展開はまずい……。
「な、なに?」
「水谷君ってさ、今日もトランプって持ってたりする?」
「持ってるけど……」
「お願い、昼休みの間貸してくれないかな? あれなら一緒にトランプするのもいいよね!」
 顔の前で手を合わせ、目をギュッと瞑って頼み込んでくる。断るのも申し訳なくなってくるが、僕のトランプは普通のものではない。遊ぶには適さない代物だ。
「えっと……」
 どう断ろうかと考えると言葉に詰まる。花坂さんを傷つけない言い方ってなんだろう。檜山は今更考える必要がないし、星川についてはいつも振り回されて考える余地がなかった。
 普段関わりがない相手は距離感が掴めないし、どうも怖気づいてしまう。その時、星川が立ち上がり、仁王立ちで腕を組んだ。
「私はワードウルフがしたい!」
「えっそうなの?」
 星川が花坂さんの背中にもたれかかり、両手でキツネを表現する。
「やりたいなーおねがーい。皆もいいでしょ~」
 桐野や他の女子の面々の反応は半々だった。
「うちはトランプやりたいな~いいじゃん。借りても減るもんじゃないし」
「私はどっちでもいいけど。まぁ愛奈がやりたいならワードウルフでいいよ」
 反対意見もあるが、星川は一貫して強気な姿勢を見せ、意思を一切曲げなかった。
「今日はどうしてもワードウルフがやりたい気分なの。一生のお願い!」
「嘘~一生って言葉、初めて聞いた。そこまで言うなら乗ってあげる」
「私も、いいよ」
 トランプ派だった人も星川の押しに負け、女子グループ全体がワードウルフをやる雰囲気に変わっていた。た、助かった……。
「み、水谷君、ごめんね。借りたいってお願いしたのに、ワードウルフやることになりそう」
「いや、全然」
 花坂さんは僕に謝りながら席に戻る。僕と檜山も昼食を再開するが、彼女らの話はまだ続いていた。
 ――でも何でそんなに焦ってたの、星川さん。珍しいね
 ――それな、まるで水谷を庇っているみたいだった。もしかして……?
 ――いやいや~気のせいだよ~ははは
 星川は笑顔を絶やさないが、どこか上滑りしていて、女子達に突っ込まれまくっていた。ただ、桐野ただ一人が星川をちらっと見た後、僕を真っ直ぐに見つめ、眉をひそめて睨み付けてきた。僕は思わず檜山に耳打ちする。
「ねぇ、桐野がこっちを見てくるんだけど、なんでだと思う?」
「さぁ、わかんね」
 檜山は何事もなかったかのように、ハンバーガーに被りついている。お前はなんでいつも呑気なんだ、と内心思いながらも、僕も気にするのを止め、昼食に専念することにした。