キーンコーンカーンコーン。
六時間目終了の合図が鳴った。担任の話はそこそこに、クラスメイトは部活動や遊び、自宅など各々の行き先に向かっていく。僕も本来は、真っ先に帰り支度を済ませ、さっさと家に帰るのだが……
――放課後は空き教室に集合! 十分後に来てね、遅れないように😋
星川から連絡が来ていた。ネットで調べるとこの顔は美味しい顔の絵文字らしい。なんでこれを使ったんだ? と疑問に思いながらも、僕は指定された教室に向かい、扉を開ける。
縦長の部屋の奥には椅子に座り、パンを頬張る星川の姿があった。窓は開けられ、涼し気な風が入ってきている。
彼女はこちらを一瞥した後、パンに視線を向けて食べ続けていた。
「来たけど、何食べてるの? 顔文字も関係してそうだけど」
「ご名答! これは食堂のカレーパン、一度放課後に食べてみたかったんだ。買い食いってやつ」
「いやいや、学校内で言うか、それ?」
「私が良ければそれでいいの。それよりも! 教室に入る時はノックくらいしなよー君だからいいけどさ、こんな顔に衣をつけている姿、他の人に見られたらまずいじゃん!」
「まぁ確かに、悪かったよ」
普段誰も使わない空き教室とはいえ、もしもの可能性を考えたらノックはすべきだった。次からは気を付けよう。
「いいよ、じゃあ早速始めようか」
彼女は窓を閉め、バッグからトランプケースを取り出す。僕も対面の椅子に座り、机に三枚のカードを出した。スリーブは適当なカードゲームの物を使っているが昨日の今日だし、現状はこれでいいだろう。
「おっ、ちゃんと三枚書いてきたみたいだね、感心感心」
僕のカードは三枚。表向きはこんな感じだ。
【水谷1 🎓】
【水谷2 💪】
【水谷3 🪟】
「やれるだけはやってみたつもり」
「いいね~それにしても、最初から上位三つを書いてくるとは気合い入ってるっ」
「そういうわけでもないんだけどな」
「物は試し! まずは私からやり方のお手本を見せようかな」
彼女は机に置かれた僕のカードを一枚ずつ見つめている。うーんと顎に右手を置き、真剣に考えている姿はなんだか普段の彼女を彷彿とさせていた。
「選択肢としては、君が突飛なことをしない限り、勉強方面になるはず。それも、高校生ができる範囲で。とするなら」
「……」
「大学受験か、定期テスト関連に絞られる。君の普段の姿を見る限り、変なことはしない、定期テストなら鉛筆とかになるはず。わざわざ角帽なら、大学受験関連だと思う」
ごくりと唾を飲む。思った以上に星川は鋭いようだ。勿論、簡単な問題なのはあるだろうけど、普段の僕を見て絞り込むとは思わなかった。
「その反応、かなり近いね。しめしめ」
「さて、どうだろう」
僕は既に九割近く答えを出されていることに驚きを隠せない。もしかして、今日のうちに当たってしまうのだろうか。
「君の成績がクラスのトップであることも知っているよ、なにせ、昼休みに檜山君が話してるの聞いたことがあるもん」
「あっあいつ……」
檜山は悪いやつではないが、このゲームにおいては僕の弱点になっていた。今後は注意しないといけないだろう。勝たなければ、昨日の画像も消してもらえない可能性だってあるのだ。
「それを踏まえたら……まずはざっくり行こうかな。有名な大学に行きたいとか、どう?」
星川は親指と人差し指を立てて、僕に向けてきた。
「それは、もう当てるってことで良いの?」
「うん、今回は最初だしそれでいいよ。練習みたいなものだしね」
「分かった。改めて確認だけど、当たったかどうかは僕が判断していいんだよね?」
「いいよ。あっ一応言っておくけど、私の場合は、一言一句当たってないとダメなんてことはないから、ほぼ合ってるという段階なら正解にする。参考にするかどうかは君次第」
星川はそう言って、僕の角帽のカードに右手を添え、僕の方へ差し出す。回答を変える気はないらしい。それなら、僕の返事は決まった。
「まぁ……あたりだよ、ご明察」
「えっうそ、まさか当たるとは思わなかった」
彼女は意外といわんばかりに目を見開いていた。
「そんなに驚くこと?」
「いや、だってさ。高校生活で一番やりたいことだよ! 普通に考えたらさ、青春したいとか、恋人作りたいとか、夢を叶えたいとか、そう言うのが来ると思ってたから、拍子抜けしちゃって」
「た、確かに……」
言われてみればその通りだった。僕が高校生のうちにやりたいか? 一番に成し遂げたいことかと問われると、何だか違う気がする。勿論、大事なことだとは思っている。将来を左右する大きな分かれ道でもあるのだし。
「取り敢えず、一旦君が作ってくれた三枚を当て切ってから、今後のことは考えよっか。まずはこのゲームに慣れてほしいし」
「分かった」
「じゃあ、君の番だね。十三枚もあるから、最初は一枚だけに集中して決めるといいかも」
僕は星川の話を聞いて、机にあるトランプを見渡す。一番や二番の数字はさっき彼女に言われたことを加味すると、かなり重要なことなのだろう、そう思うと、どうも気が進まなかった。
そんなことを考えているうちに、三番目のシャツとネクタイの絵文字が目に入る。スマホで検索すると、名前はネクタイという絵文字だった。
【星川3 👔】
ネクタイから連想できること……僕は自然と自分の制服に視線を落とす。白い半袖シャツに紺地で白のストライプのネクタイだ。日頃着ていて見慣れているものではあるが、僕にとっては数少ないヒントだ。
星川の方にも目を向けると、彼女も同じネクタイをしている。僕達の高校は、男女ともにネクタイ着用の制服を採用していた。取っ掛かりとしては悪くない。
このトランプから始めてみよう。
「僕は、三番のネクタイのやつから当てにいくよ」
「おーいいね。難易度的にも丁度良いと思う!」
星川は三番以外のトランプをしまい、残されたものだけを机の中央に置いた。
「さて、どうする? 自分で考えを膨らませてもいいし、質問をしてもいいよ」
「うーん、そうだな。今回のトランプは、僕達の制服と関係ある?」
「あるね、めっちゃ関係あるよ」
「了解。制服でやりたいこと……か。さっき星川が話していたものも加味すれば、青春とかにも絡んでいてもおかしくない」
「おー」
「ここからが思いつかない。あっでも制服改造とかはありそうだな」
星川の制服を改めて見渡してみる。見る限り、特にいじっている所はない。うちの高校は制服にはそこまでうるさくないから、アレンジしている人は普通にいるものだ。
「面白いね、なるほど。そう考えるんだ」
彼女は良いとも悪いとも言い切れない絶妙な反応を示す。ただ、初めてにしては上出来だと思う。一発目から当てられれば効率は良いが、そんなに甘くはない。星川に関しても全然知らないのだから、これから情報を蓄積していく中で次第に分かって来るだろう。
僕はそれから幾つか質問を重ねたが、思うような情報は出ず、結論として……
「制服改造をしてイメチェンしたい、で行こうと思う」
そう言って、僕は星川のトランプに触れ、彼女に寄せた。
「はーい。それじゃあ今日の結果発表~」
星川は、口でドラムロール風の音を奏でた。音程が高低ぐちゃぐちゃで密かに笑ってしまう。
「残念、違いま~す。でもめっちゃいい線だよ。その調子!」
「なるほど、こんな感じでやるんだな。要領は掴めた気がする」
「それならよかった。明日からもやってこ!」
僕らは、雑談もそこそこに教室を出て解散した。三十分ほどだったが、あっという間の時間だった。今後も基本的には空き教室で行い、難しい日は事前に連絡を取り合う形でゲームを進めていくらしい。
「さて、私は今日で二枚目を当てにいくよ」
彼女は【星川2 💪】を指差す。今日は三日目、放課後の空き教室で行っている。たった数十分話す中でも、彼女は答えに限りなく近づいていた。
「自信があるみたいだね」
「昨日の話で、君が筋肉マッチョになりたくないってことはよくわかったから。危ない危ない、私もジム通いをするかと思ったよ」
彼女は自身の左腕に力を入れ、筋肉のこぶを作るが、緩やかなカーブを描いている。全然力こぶができてなくて、微笑ましかった。
「別に筋肉をつけたくないわけじゃないって。密かにボディビルダーも目指してないからね」
「ふふっ念押ししなくてもわかってるよ。でもそうなると、なんで筋肉にしたのかって話に戻るの。生活には困ってない、筋肉をつけたいわけでもない、となるともう健康維持? 位しか残っていない気がする」
「ほう」
その言葉を聞いて、肩に力が入る。彼女は薄ら笑いを浮かべ、机のトランプに目をやった。
「健康を維持したい、でいってみようかな。それでダメなら、いよいよ難しくなりそう」
星川は腕の筋肉のトランプに触れ、僕に向けた。
「いいの? まだやり始めてそんなに経ってないけど」
「昨日たくさん検討したもん。これでビビッときてるし」
「そっか……うん、正解。すごいな、星川って」
僕は観念して答えを告げる。僕が書いたのは『健康に生きたい』だった。一応そう思う理由はあるし、少し答えから遠ざかるかなと考え、筋肉の絵文字にしてみたが……早々に当てられてしまった。
「君は分かりやすいからね~。話は変わるけど、前に当てた有名な大学に行きたいってやつと、今回のトランプってどう実行するつもりなの?」
「えっ、どうしようかな……。固めきれてない」
大学受験の話であれば、ひたすらに勉強するしかないし、今すぐに終わる話ではない。少なくとも来年、再来年と続いていく。健康維持も、野菜を食べたり、運動したりと、日常的なものばかり。二人で敢えて実行する必要はない。
彼女もうーんと声に出し、窓の外に映る青い空を眺めながら考えている。少しの静寂の後、彼女がよしっと意気込み、僕の方を向いた。
「いっそのこと、二枚のカードは免除にするのはどう?」
「免除?」
「そう、ルール②に『当たれば二人で必ず実行する』って話したと思うんだけど、今回の二つのリストは一緒にやるのって結構難しいじゃない?」
「うん、厳格に『実行』しようと思ったら、衣食住を共にしないといけなくなりそう」
二人で必ず実行する、これはもう、一緒に過ごすのと同義だ。流石に無茶がある。
「そうそう、こればっかりは現実的じゃないよ。だから、免除にするのは……どう?」
星川にしてはやや歯切れが悪かったが、彼女は話を続けた。
「当てた扱いにして、実行するのはなしにする。それとも、君が私とずっと一緒にいたいです~というなら話は別だけど?」
そう言って、彼女は机に乗り出し、僕の真ん前に顔を出す。まつ毛は程よく整えられており、前髪が垂れ、僅かに僕の頬をくすぐってくる。
「いや、それはなしで、免除でお願いします」
「うわ~君が言い始めたのにひどーい。でも良かった~君が第二の有罪になる所だったよ。安心安心」
星川はうんうん、と頷いて、机から離れ、自分の背もたれに体を預けた。
「次は君の番、今日は当てられるかな?」
「三日目だから、そろそろ当てたい所だ」
僕は【星川3 👔】の答えが導き出せずにいた。大枠は押さえているようだが、どこか空を切ってしまう。違う制服を着てみたい等、色々案を捻ってみたが、核心からは外れているようだ。
結局三十分考えた末、私服登校してみたい、というアイデアを出してみたが、案の定外れた。
土曜日も強い日差しが差し込む中、渋々学校へ向かう。残念なことに、僕の高校は休日も午前授業を受けなくてはならなかった。
教室に設置されたエアコンで涼しい環境なのは良いが、五十分×四回も授業に集中するのは、少々面倒で疲れる。
僕は、ノートに板書を取りながら、机にある真っ白なトランプに視線を移す。四枚目以降のリストを休憩がてら考えていた。
最近は夜も宿題を終えた後に考える時間を設けてはいるが、いかんせん思いつかない。それにこれまで星川に当てられた経緯を考えれば、適当なものではなく、ちゃんとしたものを書くのが正解だ。下手なリストを書くわけにはいかないと思う頃には、やる時は凝り性な自分が顔を出し始めていた。
星川は、毎日必ず一回は手を挙げていて、今も先生からの質問に積極的に応えていた。先生からもクラスメイトからも賞賛を受けている。
いつも通りの日々ではあるが、これまでとは少し違った世界が見えた。僕にとって一週間前までは、星川は他のクラスメイトと変わらない、ただの風景だった。ただ、忘れ物を取りに帰ろうとしたあの日から、星川は僕の生活に入り込んでいる。
彼女は自分のやりたいことがハッキリしていて、周囲からの評価も高い人気者だ。殆ど抜けている所がなく、歌が音痴な所が玉に瑕だ。だが、そこも愛嬌でカバーされている。
どうして彼女と関わることになったのか、今でも不思議だ。
六時間目終了の合図が鳴った。担任の話はそこそこに、クラスメイトは部活動や遊び、自宅など各々の行き先に向かっていく。僕も本来は、真っ先に帰り支度を済ませ、さっさと家に帰るのだが……
――放課後は空き教室に集合! 十分後に来てね、遅れないように😋
星川から連絡が来ていた。ネットで調べるとこの顔は美味しい顔の絵文字らしい。なんでこれを使ったんだ? と疑問に思いながらも、僕は指定された教室に向かい、扉を開ける。
縦長の部屋の奥には椅子に座り、パンを頬張る星川の姿があった。窓は開けられ、涼し気な風が入ってきている。
彼女はこちらを一瞥した後、パンに視線を向けて食べ続けていた。
「来たけど、何食べてるの? 顔文字も関係してそうだけど」
「ご名答! これは食堂のカレーパン、一度放課後に食べてみたかったんだ。買い食いってやつ」
「いやいや、学校内で言うか、それ?」
「私が良ければそれでいいの。それよりも! 教室に入る時はノックくらいしなよー君だからいいけどさ、こんな顔に衣をつけている姿、他の人に見られたらまずいじゃん!」
「まぁ確かに、悪かったよ」
普段誰も使わない空き教室とはいえ、もしもの可能性を考えたらノックはすべきだった。次からは気を付けよう。
「いいよ、じゃあ早速始めようか」
彼女は窓を閉め、バッグからトランプケースを取り出す。僕も対面の椅子に座り、机に三枚のカードを出した。スリーブは適当なカードゲームの物を使っているが昨日の今日だし、現状はこれでいいだろう。
「おっ、ちゃんと三枚書いてきたみたいだね、感心感心」
僕のカードは三枚。表向きはこんな感じだ。
【水谷1 🎓】
【水谷2 💪】
【水谷3 🪟】
「やれるだけはやってみたつもり」
「いいね~それにしても、最初から上位三つを書いてくるとは気合い入ってるっ」
「そういうわけでもないんだけどな」
「物は試し! まずは私からやり方のお手本を見せようかな」
彼女は机に置かれた僕のカードを一枚ずつ見つめている。うーんと顎に右手を置き、真剣に考えている姿はなんだか普段の彼女を彷彿とさせていた。
「選択肢としては、君が突飛なことをしない限り、勉強方面になるはず。それも、高校生ができる範囲で。とするなら」
「……」
「大学受験か、定期テスト関連に絞られる。君の普段の姿を見る限り、変なことはしない、定期テストなら鉛筆とかになるはず。わざわざ角帽なら、大学受験関連だと思う」
ごくりと唾を飲む。思った以上に星川は鋭いようだ。勿論、簡単な問題なのはあるだろうけど、普段の僕を見て絞り込むとは思わなかった。
「その反応、かなり近いね。しめしめ」
「さて、どうだろう」
僕は既に九割近く答えを出されていることに驚きを隠せない。もしかして、今日のうちに当たってしまうのだろうか。
「君の成績がクラスのトップであることも知っているよ、なにせ、昼休みに檜山君が話してるの聞いたことがあるもん」
「あっあいつ……」
檜山は悪いやつではないが、このゲームにおいては僕の弱点になっていた。今後は注意しないといけないだろう。勝たなければ、昨日の画像も消してもらえない可能性だってあるのだ。
「それを踏まえたら……まずはざっくり行こうかな。有名な大学に行きたいとか、どう?」
星川は親指と人差し指を立てて、僕に向けてきた。
「それは、もう当てるってことで良いの?」
「うん、今回は最初だしそれでいいよ。練習みたいなものだしね」
「分かった。改めて確認だけど、当たったかどうかは僕が判断していいんだよね?」
「いいよ。あっ一応言っておくけど、私の場合は、一言一句当たってないとダメなんてことはないから、ほぼ合ってるという段階なら正解にする。参考にするかどうかは君次第」
星川はそう言って、僕の角帽のカードに右手を添え、僕の方へ差し出す。回答を変える気はないらしい。それなら、僕の返事は決まった。
「まぁ……あたりだよ、ご明察」
「えっうそ、まさか当たるとは思わなかった」
彼女は意外といわんばかりに目を見開いていた。
「そんなに驚くこと?」
「いや、だってさ。高校生活で一番やりたいことだよ! 普通に考えたらさ、青春したいとか、恋人作りたいとか、夢を叶えたいとか、そう言うのが来ると思ってたから、拍子抜けしちゃって」
「た、確かに……」
言われてみればその通りだった。僕が高校生のうちにやりたいか? 一番に成し遂げたいことかと問われると、何だか違う気がする。勿論、大事なことだとは思っている。将来を左右する大きな分かれ道でもあるのだし。
「取り敢えず、一旦君が作ってくれた三枚を当て切ってから、今後のことは考えよっか。まずはこのゲームに慣れてほしいし」
「分かった」
「じゃあ、君の番だね。十三枚もあるから、最初は一枚だけに集中して決めるといいかも」
僕は星川の話を聞いて、机にあるトランプを見渡す。一番や二番の数字はさっき彼女に言われたことを加味すると、かなり重要なことなのだろう、そう思うと、どうも気が進まなかった。
そんなことを考えているうちに、三番目のシャツとネクタイの絵文字が目に入る。スマホで検索すると、名前はネクタイという絵文字だった。
【星川3 👔】
ネクタイから連想できること……僕は自然と自分の制服に視線を落とす。白い半袖シャツに紺地で白のストライプのネクタイだ。日頃着ていて見慣れているものではあるが、僕にとっては数少ないヒントだ。
星川の方にも目を向けると、彼女も同じネクタイをしている。僕達の高校は、男女ともにネクタイ着用の制服を採用していた。取っ掛かりとしては悪くない。
このトランプから始めてみよう。
「僕は、三番のネクタイのやつから当てにいくよ」
「おーいいね。難易度的にも丁度良いと思う!」
星川は三番以外のトランプをしまい、残されたものだけを机の中央に置いた。
「さて、どうする? 自分で考えを膨らませてもいいし、質問をしてもいいよ」
「うーん、そうだな。今回のトランプは、僕達の制服と関係ある?」
「あるね、めっちゃ関係あるよ」
「了解。制服でやりたいこと……か。さっき星川が話していたものも加味すれば、青春とかにも絡んでいてもおかしくない」
「おー」
「ここからが思いつかない。あっでも制服改造とかはありそうだな」
星川の制服を改めて見渡してみる。見る限り、特にいじっている所はない。うちの高校は制服にはそこまでうるさくないから、アレンジしている人は普通にいるものだ。
「面白いね、なるほど。そう考えるんだ」
彼女は良いとも悪いとも言い切れない絶妙な反応を示す。ただ、初めてにしては上出来だと思う。一発目から当てられれば効率は良いが、そんなに甘くはない。星川に関しても全然知らないのだから、これから情報を蓄積していく中で次第に分かって来るだろう。
僕はそれから幾つか質問を重ねたが、思うような情報は出ず、結論として……
「制服改造をしてイメチェンしたい、で行こうと思う」
そう言って、僕は星川のトランプに触れ、彼女に寄せた。
「はーい。それじゃあ今日の結果発表~」
星川は、口でドラムロール風の音を奏でた。音程が高低ぐちゃぐちゃで密かに笑ってしまう。
「残念、違いま~す。でもめっちゃいい線だよ。その調子!」
「なるほど、こんな感じでやるんだな。要領は掴めた気がする」
「それならよかった。明日からもやってこ!」
僕らは、雑談もそこそこに教室を出て解散した。三十分ほどだったが、あっという間の時間だった。今後も基本的には空き教室で行い、難しい日は事前に連絡を取り合う形でゲームを進めていくらしい。
「さて、私は今日で二枚目を当てにいくよ」
彼女は【星川2 💪】を指差す。今日は三日目、放課後の空き教室で行っている。たった数十分話す中でも、彼女は答えに限りなく近づいていた。
「自信があるみたいだね」
「昨日の話で、君が筋肉マッチョになりたくないってことはよくわかったから。危ない危ない、私もジム通いをするかと思ったよ」
彼女は自身の左腕に力を入れ、筋肉のこぶを作るが、緩やかなカーブを描いている。全然力こぶができてなくて、微笑ましかった。
「別に筋肉をつけたくないわけじゃないって。密かにボディビルダーも目指してないからね」
「ふふっ念押ししなくてもわかってるよ。でもそうなると、なんで筋肉にしたのかって話に戻るの。生活には困ってない、筋肉をつけたいわけでもない、となるともう健康維持? 位しか残っていない気がする」
「ほう」
その言葉を聞いて、肩に力が入る。彼女は薄ら笑いを浮かべ、机のトランプに目をやった。
「健康を維持したい、でいってみようかな。それでダメなら、いよいよ難しくなりそう」
星川は腕の筋肉のトランプに触れ、僕に向けた。
「いいの? まだやり始めてそんなに経ってないけど」
「昨日たくさん検討したもん。これでビビッときてるし」
「そっか……うん、正解。すごいな、星川って」
僕は観念して答えを告げる。僕が書いたのは『健康に生きたい』だった。一応そう思う理由はあるし、少し答えから遠ざかるかなと考え、筋肉の絵文字にしてみたが……早々に当てられてしまった。
「君は分かりやすいからね~。話は変わるけど、前に当てた有名な大学に行きたいってやつと、今回のトランプってどう実行するつもりなの?」
「えっ、どうしようかな……。固めきれてない」
大学受験の話であれば、ひたすらに勉強するしかないし、今すぐに終わる話ではない。少なくとも来年、再来年と続いていく。健康維持も、野菜を食べたり、運動したりと、日常的なものばかり。二人で敢えて実行する必要はない。
彼女もうーんと声に出し、窓の外に映る青い空を眺めながら考えている。少しの静寂の後、彼女がよしっと意気込み、僕の方を向いた。
「いっそのこと、二枚のカードは免除にするのはどう?」
「免除?」
「そう、ルール②に『当たれば二人で必ず実行する』って話したと思うんだけど、今回の二つのリストは一緒にやるのって結構難しいじゃない?」
「うん、厳格に『実行』しようと思ったら、衣食住を共にしないといけなくなりそう」
二人で必ず実行する、これはもう、一緒に過ごすのと同義だ。流石に無茶がある。
「そうそう、こればっかりは現実的じゃないよ。だから、免除にするのは……どう?」
星川にしてはやや歯切れが悪かったが、彼女は話を続けた。
「当てた扱いにして、実行するのはなしにする。それとも、君が私とずっと一緒にいたいです~というなら話は別だけど?」
そう言って、彼女は机に乗り出し、僕の真ん前に顔を出す。まつ毛は程よく整えられており、前髪が垂れ、僅かに僕の頬をくすぐってくる。
「いや、それはなしで、免除でお願いします」
「うわ~君が言い始めたのにひどーい。でも良かった~君が第二の有罪になる所だったよ。安心安心」
星川はうんうん、と頷いて、机から離れ、自分の背もたれに体を預けた。
「次は君の番、今日は当てられるかな?」
「三日目だから、そろそろ当てたい所だ」
僕は【星川3 👔】の答えが導き出せずにいた。大枠は押さえているようだが、どこか空を切ってしまう。違う制服を着てみたい等、色々案を捻ってみたが、核心からは外れているようだ。
結局三十分考えた末、私服登校してみたい、というアイデアを出してみたが、案の定外れた。
土曜日も強い日差しが差し込む中、渋々学校へ向かう。残念なことに、僕の高校は休日も午前授業を受けなくてはならなかった。
教室に設置されたエアコンで涼しい環境なのは良いが、五十分×四回も授業に集中するのは、少々面倒で疲れる。
僕は、ノートに板書を取りながら、机にある真っ白なトランプに視線を移す。四枚目以降のリストを休憩がてら考えていた。
最近は夜も宿題を終えた後に考える時間を設けてはいるが、いかんせん思いつかない。それにこれまで星川に当てられた経緯を考えれば、適当なものではなく、ちゃんとしたものを書くのが正解だ。下手なリストを書くわけにはいかないと思う頃には、やる時は凝り性な自分が顔を出し始めていた。
星川は、毎日必ず一回は手を挙げていて、今も先生からの質問に積極的に応えていた。先生からもクラスメイトからも賞賛を受けている。
いつも通りの日々ではあるが、これまでとは少し違った世界が見えた。僕にとって一週間前までは、星川は他のクラスメイトと変わらない、ただの風景だった。ただ、忘れ物を取りに帰ろうとしたあの日から、星川は僕の生活に入り込んでいる。
彼女は自分のやりたいことがハッキリしていて、周囲からの評価も高い人気者だ。殆ど抜けている所がなく、歌が音痴な所が玉に瑕だ。だが、そこも愛嬌でカバーされている。
どうして彼女と関わることになったのか、今でも不思議だ。

