真っ白なトランプと、強がりな君との答え合わせ

 季節は冬を越え、春になった。木々が芽吹き、雨に濡れた葉っぱがキラキラと輝いている。
 僕は水たまりに気を付けながら、舗装された道を進んでいく。
 実を言うと、今日の墓参りは二回目だ。わざわざ違う場所に行ってから来る人なんてお盆以外だと中々いないんじゃないだろうか。
 もしかしたら、彼女は『私を後回しにするなんて、余程の理由があったんだろうな~』と笑いながら怒るかもしれない。いや、むしろ褒めてくれるかも。だって……ずっと行けなかった姉さんのお墓に行ったから。
 君が勇気を分けてくれたお陰で、僕は姉さんと話せた。君のことも勿論伝えておいたよ。
 視界に見慣れた苗字の墓石が見え、足を止める。
「愛奈、おまたせ」
 僕は線香を上げ、カードケースを一つ置いて、手を合わせる。
 愛奈がいなくなってから、数か月が経った。長いようで短い日々だったと思う。
 先週、高校三年生になったよ。教室は変わったけど、桐野や檜山と同じクラスだ。
 仲良くは……やれてると思う。檜山はよく桐野を怒らせて追いかけ回されてるけど。
 そう言えば、愛奈に託した裏読みトランプはもう、答え合わせ出来そう?
 君のタイミングで見ていいよ、僕が許可するから。
 今日置いたカードケースには、これから高三として生活する上でやりたいことを書いた。
 当て合い……というより、宣言みたいなものだよ。君に見てほしくてね。
 また来た時に、結果を報告するよ。楽しみにしてて。
 僕は目を開け、カードケースを手に取ってその場を後にした。

 ◆

「よし、筒井筒の入試対策はこんなものだろう。結局、登場人物の妻は、夫が他の女性のもとに通う状況で、文句を言わず、むしろ夫の身を案じる姿勢を見せたのが功を奏したわけだが、実際こういう人がいたらどう思う? 息抜きがてら気軽に意見を言ってほしい」
 周囲は誰も手を挙げず、黙々と問題を解く人や面倒なのか俯く人が殆どだった。
 そんな中、僕は恐る恐る手を挙げてみた。
「おっ水谷か。珍しいな」
「僕としては……これまでの関係性と運が味方したんだろうなと思っています。妻の気持ちは分かりませんが、夫は何だかんだ妻のことが大切で、彼女が自分を案じている様子を見てこの人しかいないとなったわけで。タイミングが悪ければ歌を詠んでいる場面は見られることなく、関係が途切れた可能性もあるでしょう。いや……」
「うん? どうした」
「単に妻の方が上手だったというだけな気がします。分かっていたんですよ、きっと。夫は必ず自分の元へ帰って来る確信があったのではないでしょうか」
「面白い意見だ。人間関係で悩むのは今も昔も変わらないんだよ」
 周囲はくすっと笑い、柔和な雰囲気が漂う。僕は膝を震わせながらも椅子に腰を下ろした。

 ◆

 三年生はじめての席替えはまさかの窓際で一番後ろの席だった。目の前の席にいるのは明るい人気者のあの子ではなく、空席でもなく、あまり話したことのない男子だ。
 だけど、雰囲気は落ち着いていて、話が合いそうな気がする。
 僕はポケットにある普通のトランプに手を触れる。
 高校に入学してから、裏読みトランプ以外で誰かを誘うなんてことをしてこなかった。
 そのせいで、言葉が喉に詰まる。僕は思い切って目の前の席の男子の肩を叩く。
「ねえ、昼ご飯を食べたら、休み時間にトランプやらない? 持ってきてるんだ」
 振り向いた彼に僕がトランプを差し出すと、同級生は「いいよ、昼ご飯も食べない?」と言って椅子ごとこっちに来てくれた。廊下側から檜山が「俺を忘れられちゃ困るぜ~」と、椅子と昼食を持ってくる姿が見える。
 愛奈、見てる? また一つやりたいことを実行できたよ。