「はぁ……まさか、忘れ物をするとは思わなかった」
放課後、学校の校門を出た所で宿題のプリントを忘れたことに気が付き、渋々上履きに履き替えていた。このまま家に帰りたい気持ちはやまやまだったが、明日提出なので仕方がない。
溜息をつきながら、階段を上がって教室の前に辿りつく。ガラガラと音を立てて扉を開けると、幸いにも誰もいなかった。今のうちにさっさと回収して帰ろうと思ったが、真ん中の一番後ろの机の近くにバッグが落ちており、白いカードが幾つも散乱していることに気付く。
「おいおい、誰がこんなこと……」
一度は無視しようと思ったが、どうも放っておけなかった。教室の後ろに行き、散らばったカードの一枚を手に取る。
中央に花火の絵が描かれ、上部に横書きで――高校生のうちにやりたいことリスト――と書かれている。何回も書いては消しているのか、文章が書かれた部分は紙が毛羽立っていた。
そして、右上と左下には、1と数字が書かれている。他に落ちているカードも見てみると、同じ場所に1から13までの数字が書かれており、中央には色んな絵文字が手書きで描かれていた。トランプでよく見かけるハートだけでなく、笑顔や右人差し指を口に近付けている顔、花火に飛行機と様々だ。
「これは……トランプ? それにしても厚みがあるな」
表面は透明で、裏面が青柄のスリーブ(カードを保護する袋)にトランプが入っている。何かのゲームだろうか?
それにこのトランプを見ていると、どこか既視感があった。僕が持っているトランプと似た系統のものを使っているらしい。僕はつい自分のバッグを確認するが、いつも通り端のポケットにカードケースが入っていて、ほっと一息をつく。
なぜ、このトランプを使っているんだろう? ノートにでも描けばいいのに……。
まぁ考えても仕方がない、さっさと片付けて家に帰ろう。トランプが床に落ちているのは見ていて気持ちいいものではない、カードが可哀想だ。
僕は一枚一枚手に取って集め、数字順に並び替える。そして、落ちていたスクールバッグを立てて、カードを入れようとした、その時だった。
――パシャリ
後ろからカメラの撮影音が聞こえた。恐る恐る振り向くと、スマホを両手に持ち、こちらを睨む星川の姿があった。
「それ、私のバッグなんだけど。何してるの?」
今まで聞いたこともない鋭さと冷たさを感じさせる声を放つ彼女には、有無を言わさぬ迫力があった。それに、こちらにスマホを向け続けている。きっと動画を撮っているのだろう。
これは、むやみに言葉を間違えられない……が、言い訳はできるし、別に悪いことをしていないはずだ。僕は恐る恐る丁寧に言葉を紡ぐ。
「床に散らばったトランプを戻そうとしてたんです。近くにバッグも落ちていたので、きっと同じ持ち主だろうと思って。星川さんのもので合っていますよね?」
「……見せて」
星川は僕にスマホを向け続けながら、差し出したトランプを手に取る。彼女はじーっと様々な角度からトランプを確認し、はぁ……と息を吐いて顔を上げた。
「うん、私のだよ。でもなんでトランプだって分かったの?」
「数字が書いてありましたし、何より……十三枚だったので」
「ふ~ん。どこまで見た? 見たものを全部話して」
彼女は変わらず眉をひそめ、こちらを窺うようにスマホのレンズと一緒に僕を監視していた。
正直に答える他ないらしい。
「1番のカードには花火の絵と、高校生のうちにやりたいことリストって書いてありましたね。何度か消した跡がありました。2番は飛行機の絵、3番は……」
「ス、ストップ! まさか、全部覚えてたりしないよね?」
「一応……覚えてますよ」
星川の顔から血の気が引いたように真っ青になっていく。目線は下に落ち、スマホも下ろしていた。そして、恐る恐るこちらに視線を向ける。
「うそ……でしょ。もしかして、消した所の文字は見えて、た?」
「いや、見えてないですけど……何かまずいことでもありました?」
「あー、ううん。前の題名がダサかったから書き直しただけだよ、ははっ」
星川は明らかに引きつった笑いを見せる。下手に深掘りしない方が良さそうだ。
「あの……一通り話しましたし、渡したのでもういいですよね?」
「うーん、スリーブの中身は?」
「見てませんよ、一枚も」
「そっか……うん? あっ! いいこと思いついちゃった」
星川は突如目の輝きを取り戻し、普段の天真爛漫な笑顔を見せた。それも、何かを企んだかのように、カメラを再度向け、にやりと僕の眼を見つめる。
なっ何を思いついたんだ?
「君が私のトランプを集めてくれたことは分かったよ。でもさぁ、女子の鞄に手を入れている写真が撮れちゃったんだよね~」
「そっそうですね、消してもらえると助かるんですけど……」
星川は一歩ずつ、僕に近づいてくる。何やら不気味で冷や汗が流れ、心拍数が上がっていく。
「これ、消してほしい?」
「もちろん」
「なら、ちょっとゲームに付き合ってよ」
星川はトランプから、十三番の笑顔の絵文字が描かれているカードを取り出した。
「やってくれる、よね? 水谷はじめ君」
最初は青ざめていたはずの彼女が、いつのまにか楽しそうに見えた。
放課後、学校の校門を出た所で宿題のプリントを忘れたことに気が付き、渋々上履きに履き替えていた。このまま家に帰りたい気持ちはやまやまだったが、明日提出なので仕方がない。
溜息をつきながら、階段を上がって教室の前に辿りつく。ガラガラと音を立てて扉を開けると、幸いにも誰もいなかった。今のうちにさっさと回収して帰ろうと思ったが、真ん中の一番後ろの机の近くにバッグが落ちており、白いカードが幾つも散乱していることに気付く。
「おいおい、誰がこんなこと……」
一度は無視しようと思ったが、どうも放っておけなかった。教室の後ろに行き、散らばったカードの一枚を手に取る。
中央に花火の絵が描かれ、上部に横書きで――高校生のうちにやりたいことリスト――と書かれている。何回も書いては消しているのか、文章が書かれた部分は紙が毛羽立っていた。
そして、右上と左下には、1と数字が書かれている。他に落ちているカードも見てみると、同じ場所に1から13までの数字が書かれており、中央には色んな絵文字が手書きで描かれていた。トランプでよく見かけるハートだけでなく、笑顔や右人差し指を口に近付けている顔、花火に飛行機と様々だ。
「これは……トランプ? それにしても厚みがあるな」
表面は透明で、裏面が青柄のスリーブ(カードを保護する袋)にトランプが入っている。何かのゲームだろうか?
それにこのトランプを見ていると、どこか既視感があった。僕が持っているトランプと似た系統のものを使っているらしい。僕はつい自分のバッグを確認するが、いつも通り端のポケットにカードケースが入っていて、ほっと一息をつく。
なぜ、このトランプを使っているんだろう? ノートにでも描けばいいのに……。
まぁ考えても仕方がない、さっさと片付けて家に帰ろう。トランプが床に落ちているのは見ていて気持ちいいものではない、カードが可哀想だ。
僕は一枚一枚手に取って集め、数字順に並び替える。そして、落ちていたスクールバッグを立てて、カードを入れようとした、その時だった。
――パシャリ
後ろからカメラの撮影音が聞こえた。恐る恐る振り向くと、スマホを両手に持ち、こちらを睨む星川の姿があった。
「それ、私のバッグなんだけど。何してるの?」
今まで聞いたこともない鋭さと冷たさを感じさせる声を放つ彼女には、有無を言わさぬ迫力があった。それに、こちらにスマホを向け続けている。きっと動画を撮っているのだろう。
これは、むやみに言葉を間違えられない……が、言い訳はできるし、別に悪いことをしていないはずだ。僕は恐る恐る丁寧に言葉を紡ぐ。
「床に散らばったトランプを戻そうとしてたんです。近くにバッグも落ちていたので、きっと同じ持ち主だろうと思って。星川さんのもので合っていますよね?」
「……見せて」
星川は僕にスマホを向け続けながら、差し出したトランプを手に取る。彼女はじーっと様々な角度からトランプを確認し、はぁ……と息を吐いて顔を上げた。
「うん、私のだよ。でもなんでトランプだって分かったの?」
「数字が書いてありましたし、何より……十三枚だったので」
「ふ~ん。どこまで見た? 見たものを全部話して」
彼女は変わらず眉をひそめ、こちらを窺うようにスマホのレンズと一緒に僕を監視していた。
正直に答える他ないらしい。
「1番のカードには花火の絵と、高校生のうちにやりたいことリストって書いてありましたね。何度か消した跡がありました。2番は飛行機の絵、3番は……」
「ス、ストップ! まさか、全部覚えてたりしないよね?」
「一応……覚えてますよ」
星川の顔から血の気が引いたように真っ青になっていく。目線は下に落ち、スマホも下ろしていた。そして、恐る恐るこちらに視線を向ける。
「うそ……でしょ。もしかして、消した所の文字は見えて、た?」
「いや、見えてないですけど……何かまずいことでもありました?」
「あー、ううん。前の題名がダサかったから書き直しただけだよ、ははっ」
星川は明らかに引きつった笑いを見せる。下手に深掘りしない方が良さそうだ。
「あの……一通り話しましたし、渡したのでもういいですよね?」
「うーん、スリーブの中身は?」
「見てませんよ、一枚も」
「そっか……うん? あっ! いいこと思いついちゃった」
星川は突如目の輝きを取り戻し、普段の天真爛漫な笑顔を見せた。それも、何かを企んだかのように、カメラを再度向け、にやりと僕の眼を見つめる。
なっ何を思いついたんだ?
「君が私のトランプを集めてくれたことは分かったよ。でもさぁ、女子の鞄に手を入れている写真が撮れちゃったんだよね~」
「そっそうですね、消してもらえると助かるんですけど……」
星川は一歩ずつ、僕に近づいてくる。何やら不気味で冷や汗が流れ、心拍数が上がっていく。
「これ、消してほしい?」
「もちろん」
「なら、ちょっとゲームに付き合ってよ」
星川はトランプから、十三番の笑顔の絵文字が描かれているカードを取り出した。
「やってくれる、よね? 水谷はじめ君」
最初は青ざめていたはずの彼女が、いつのまにか楽しそうに見えた。

