真っ白なトランプと、強がりな君との答え合わせ

 十一月中旬。空は晴れ晴れとした青さを見せ、ひつじ雲がプカプカと浮かんでいる。
 今日は土曜日で愛奈の外出日だ。十三時の待ち合わせのため、僕は高校の最寄り駅にいた。
「はじめ君! お待たせ~」
「こんにちは、水谷君」
 車いすに乗る制服姿の愛奈と彼女のお母さんが改札から出てくる。
「こんにちは、元気そうだね」
「そりゃもう、楽しみにしてたし」
「あんまりはしゃぎ過ぎちゃダメよ。門限も絶対に守ること。無理もしないように」
 今回外出できるのは十二時から十七時まで。移動も含めたら一緒にいられるのは三時間ほどだ。そして、何かあったらすぐ保護者及び医師に連絡すること、学校以外に立ち寄らないことが条件である。愛奈は一日外出を望んでいたが、流石に許可できないと主治医に言われてしまった。
「はいはい、分かってるよ」
「何かあったらすぐに連絡するので」
「頼もしいわ。それじゃあ、楽しんできて」
 愛奈のお母さんに別れを告げて、僕は彼女の車いすを押していく。以前も屋上へ行く時に押したことがあったが、何だか軽くなっている気がした。
「休日に制服って変だね」
「そうだな、夢の国に行って以来だ」
「うわ~懐かしい。また行きたいな~」
 愛奈はふふ~んと鼻歌をうたうが、もうあの頃のように自由に動くことは出来ない。
「もし行ったら、ゲート越えた瞬間走り出しそう」
「夢の国だもん。最初から全力で楽しまなきゃ勿体ないでしょ?」
 そう言って、愛奈はこちらに顔を傾けて笑う。今日も彼女には振り回されてしまいそうだ。僕は一瞬一瞬を噛みしめるように、足を進めていく。
「そう言えば、ちゃんと書いた? 最後のトランプ」
「勿論、書かないとゲームにならないでしょ」
 僕は赤信号の前で止まり、上着のポケットから一枚のカードを取り出す。
「はい、今朝書いたんだ」
「どれどれ~へぇ……君が避けてきたハートがある」
【水谷13 ♥】
「書くのには勇気が必要だったよ」
「これは何のハートかな~チラチラ」
 愛奈はトランプを吟味しつつ僕の反応を窺う。できる限り平静を保とうと周囲を見ていると、もう少しで信号が変わりそうなことに気付く。
「想像に任せるよ。ほら、そろそろ動くからちゃんと前見て」
「仕方ないな~でもそっか、これで全部埋まったんだ」
「うん、愛奈のおかげでね」
 僕は青信号になると同時に車いすを動かす。涼やかな追い風が身体を突き抜け、色付いた紅葉が宙を舞う。まるで一緒に登校しているみたいだ。

 暫く歩いていくと、正門が見えてくる。そこには仁王立ちしている生徒がいた。僕らの存在に気づくと、一目散に手を振って駆け寄って来る。
「愛奈、待ってたよ! 今日も可愛いね」
「ありがと、沙希。走ってこなくてもいいのに」
「一秒でも早く愛奈に会いたかったんだもん、ぎゅ~」
 目の前で二人は抱き合い、ほんわかとした雰囲気を漂わせる。桐野は満足そうな笑みを浮かべるが、すぐに顔を上げ、僕にはふくれっ面を見せた。
「水谷そこ代わって。ここからは私のターンだし」
「はいはい」
 僕は愛奈の後ろを明け渡した。桐野はいつも通り愛奈一筋で僕には冷たい態度をとってくる。だが今回は担任の先生に交渉して休日の校舎を開けるという荒業をしており、僕は頭が上がらなかった。
「学校の許可とか諸々ありがとう。結構大変だったんじゃない?」
「全然、愛奈のためだもん。生徒会長権限はここで使わないと勿体ないし」
「流石沙希! カッコイイ」
「でしょ~今日は色々案内するから。いこいこ」
 桐野は早足で愛奈を連れて行く。僕も遅れないように後ろからついていった。