真っ白なトランプと、強がりな君との答え合わせ

「愛奈~心配したんだから」
「ちょっと沙希?!」
 翌日の病室、彼女の要望通り桐野を連れてきた。案の定、愛奈を見た瞬間に泣き出し抱き着いている。僕の後ろには失笑する檜山もいた。
 今朝、桐野に愛奈の居場所が分かったと話した所、彼女は今すぐ連れてってと言い、登校して早々に帰ろうとする始末。話を聞いていた檜山が、休んだらそれこそ愛奈が悲しむと説得し、事なきを得た。檜山も愛奈の様子が気になったらしく、一緒に来たという形だ。
「そんなに泣かないでよ沙希……むしろ私に怒る場面じゃない?」
「本当だよ! 私達、親友じゃないの? 一番に話してくれてもいいじゃん! どんなことでも、愛奈が話してくれるならちゃんと聞くのにさ……」
 桐野がワンワンと泣く様子に、愛奈は目をキョロキョロさせ、口を開けていた。結局、桐野が落ち着くまでに十分。
普段余裕の表情で対応する愛奈もあたふたしていて、ごめんね……と言いながら頭をなでていたのが新鮮だった。
「それで、何があったのか聞いてもいいのかな? 星川さん」
「うん。実は……ね」
 愛奈は檜山に応え、ゆっくりと自分の状況を話し始めた。脳の病気のこと、余命三か月ということ、体調不良と治療のために入院したことを伝えていく。桐野と檜山は途中涙目になりながらも、愛奈から目を背けることなく、最後まで話を聞いていた。
「そっか……私決めた。愛奈が泣かない限り、私はもう泣かない」
「……どうして?」
「愛奈、泣いてないもん。私ばっかり泣いてたら、また連絡くれなくなりそうだし」
「はは……ごめん」
「どんだけ迷惑かけてもいいから。逆にかけなきゃ怒るよ。ね?」
 桐野は僕達二人を睨み付けて、同意を求めてきた。
「うん、もう慣れっこだし」
「勿論だよ、桐野の制御は任せて。俺得意だから」
 檜山はいつものハンサムスマイルを見せ、右手の親指を立てる。
「はぁ??? 私、あんたのペットじゃないんですけど」
「どうどう」
「ははは、変なの」
 愛奈はにっこりと笑う。部屋が賑やかになると彼女も楽しそうで僕も嬉しくなる。そんな充実した時間は一瞬で終わり、退室時間となった。

 ◆

 次の日の放課後も僕は愛奈の病室に来ていた。無論、裏読みトランプをやるためだ。
「あれっ? 君のカードまた増えてる! てか絵文字多くない?」
「うん、一つって決まりはないから増やしてみた」
【水谷9 ♠♥♦♣】
 このリストは昨日のお見舞いで見た愛奈の様子から発想を広げ、夜に書いたものだ。改めてルールを確認した時に、絵文字の数に制限がないことに気付き、思い切って四つにしている。
「うわーその発想はなかった。私も変えようかな」
「それ、ヒントを増やすことになるけどいいの?」
「やめとく!」
 愛奈は俄然やる気になったようで、今日の当て合いでは九のカードを指名してきた。
「昨日の今日で描いてるもんね……よしっ君の一日を全部教えて!」
「えぇ……めんどくさいな」
「いいから!」
 僕は渋々すべてを教えた。起床時間に朝食、桐野に授業間休みの時間で愛奈に関する尋問を受け続け、放課後は逃げるようにして学校を出たこととか、思えば色々あったな……。
「うわー沙希の話ばっかり。もしかして、沙希は関係あるの?」
「うん、あるよ」
「あるの?! えっどういうこと?」
 彼女は首を傾げ、眉間にしわを寄せた。そしてトランプ、沙希、トランプ、沙希……と呟きながら考え事をしている。愛奈でもすぐには分からないだろう、多分。
「トランプは関係あるよね?」
「さぁ、どうでしょう」
「ないわけないよね~」
 当然のものとして進められた。まぁ合ってるんだけど。
「君が敢えて四つにしたのがポイントだと思う。四つと言えば……うん? 沙希が関係あることで四つといえば、昨日私達四人いたよね? 私と君と、沙希と檜山っち」
「あぁ……そうだな」
「なるほど……君、単純だね。にしし」
「悪かったな」
 絵文字を増やすのは面白いアイデアだと思ったんだが、やはり分かりやすくなってしまうか。自分で言った発言が全て跳ね返ってきて心が痛い。
「よーし当てよう!」
「もういいの? 早くない? 吟味したら?」
「ダイジョーブ。君が焦る時は当たってるって相場が決まってるから。それに……」
「それに?」
「君の生活ぶりが分かったので大満足」
「さいですか……」
 確かに、説明だけで結構時間取ったしな。愛奈なりの気遣いかもしれない。
「四人で一緒にトランプをしたい! どどん」
「……正解」
【水谷9 四人でトランプをして遊びたい ♠♥♦♣】

 ◆

 ある日の病室にて。僕と檜山と桐野は、愛奈が検査で部屋を抜けている最中にある作戦を実行していた。既に準備は終え、着替えも完了して僕らは扉をじっと見つめている。
 そして、ついに扉が開いた。看護師が連れ添っているが、愛奈のお母さんとも一緒に話は合わせて貰っている。万全の態勢だ。
「それでは星川さん、楽しんでね」
「えっ、看護師さんどういうこ……と?!」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
 僕と檜山は執事姿で、桐野はメイド服で愛奈をお迎えする。お部屋ももちろんお嬢様仕様だ。医療機器の邪魔にはならないよう配慮しつつ、飾りつけをしている。
「みんなどうしちゃったの?! それに部屋もすごい……まるでお城の中にいるみたい」
 愛奈は目を輝かせて部屋を見つめる。作戦は大成功だ。
「だよね~頑張っちゃった!」
「沙希~めっちゃ可愛い~こんなメイドさんいたら頑張れちゃう!」
「ささ、愛奈お嬢様。体が冷えないうちにお部屋の中へ」
「うん、君も似合ってるね。流石、私の執事」
「私、檜山がブレンドした紅茶もぜひ」
「今日は一段とカッコいいね、檜山っち」
 僕達は思い思いの方法で愛奈をおもてなしする。彼女は人に甘やかされるのに慣れていないのか、ずっとそわそわしっぱなしだ。その様子を見てつい笑ってしまう。
 暫くお嬢様を甘やかし続けていると、愛奈の目からぽろぽろと涙が零れる。
「私のために……ごめんね」
「お嬢様、その言葉はいけませんよ。イエローカードです」
 僕は黄色で彩られた禁止 🚫カードで愛奈を優しく注意し、ハンカチを差し出した。
 彼女は涙を拭き終えた後、僕が見せるものに目を凝らす。
「ねぇ、これってごめんって言ったらダメってやつ?」
【水谷8 ごめんって言ったら罰ゲーム 🚫 】
「正解です、お嬢様。詳しくはあとで」
 僕はシーっと桐野と檜山に見えないようにジェスチャーをし、お嬢様は静かに頷いた。
「二人で何話してるの~うちにも聞かせてよ、愛奈」
「これから皆でゲームやりたいなって話してたの、付き合ってくれる?」
「もちろんだよ、愛奈。負けないから」
「俺もお供しますよ、お嬢様」
「やった! じゃあ早速用意して、執事!」
「承知しました」
 僕はポケットからカードケースを取り出す。二人に隠れながら、裏読みトランプの内容を実行するのは三回目だが、変わらずワクワクする。そんな思いを胸に皆でゲームを楽しんだ。