八月も下旬に入り、学校で夏期講習が始まる日の前夜。お風呂から上がり、ベッドに寝そべっていた。もう少しで裏読みトランプの時間が始まるはずだったが……。
「こない」
星川はいつも時間通りに掛けてくることが多く、用事がある場合は予め連絡をしてくれていた。まぁ数分遅れて開始することも時々あるし、こんなこともあるかと五分、十分と待っていたが、スマホが揺れることはなかった。
僕は何かあった可能性も考慮し、意を決してこちらから通話をかけてみた。すると、数コール鳴った後、星川が出る。
「も、もしもし。星川、今大丈夫?」
「うん、ど、どうしたの? 君からかけてくるなんて珍しいね」
「いつもの時間だったからさ、裏読みトランプの」
「あっ……ごめん、うっかりしてた」
「何かあったの、電話かけてこないの初めてじゃない?」
「いやぁ……ちょっとね」
珍しく星川は歯切れが悪い。いつになく沈黙が続き、冷房の音が耳に入って来る。
「調子悪いなら、今日は辞める?」
「やる、やりたい」
「なら……いいけど」
星川から写真が送られてくる。通話で裏読みトランプをする時は、今あるカードを写真を撮って送り合うようにしていた。とはいっても、僕が出せるカードは手元にないのだけれど。
彼女のカードは残り五枚。
【星川1 🎆】
【星川6 👑】
【星川7 🩷】
【星川11 ⚡】
【星川13 😊】
僕は未だに一番のカードに触れることを避けていた。最も彼女がやりたいことだからこそ、失敗したくない。だから、他のカードに目を向けたいが、13はこの前彼女が隠したことで触れづらく、11は絵文字が稲妻であることから電流を受けたいのか、と以前言ったら爆笑されてしまった。あまりに見当がつかないので一旦保留にしている。
残りは六と七だが、他と違って二枚だけ隣り合っているのが気になる。これは実のところ、七を避けていたのが大きかった。ハートで高校生のうちにやりたいことと言えば、恋愛しか思いつかなかったから。
「今日はどれにするの?」
「うーん、悩んでる」
「君、ハートだけはとことん避けてるよね」
「えっなんでそれを」
「分かるよー一回も話題にしてないじゃん」
星川はクスクスとからかうように笑う。流石に彼女が気付かないはずがなかった。
「じゃあ……当ててみるよ。いつかはやるんだし」
「うん、それがいいよ。でもなんだか……恥ずかしいね」
「えっ?」
彼女の声が少し上ずっていた。その反応に、僕の予測は確信へと近づいていく。
「一応確認だけどさ、このカードって恋愛系……なの?」
「はは、鈍感な君でも流石に勘づくよね」
「その反応ってことは……まさか」
「高校生のうちにやりたいことリストだよ。入らないわけがないよ」
僕は罠に引っかかったような感覚に陥る。裏読みトランプを始めた時点でもう逃げることはできないのだ。
「それは……なんだ、実際に彼氏彼女になるとか?」
「ふふっなっちゃうのも面白いね。君は好きな人はいるの?」
「いない、けど。星川は?」
「多分いない。初めて付き合うなら、好きな人とちゃんと付き合いたい」
「なるほど」
彼女が話すのが本当なら、裏読みトランプで実際に付き合うというのを書くのは違う気がする。彼女がリストを書いていた時点で好きな人がいたなら既に本末転倒だ。必ず実行するという名目上、誰が相手でもできる形でないとダメだと思う。
「それなら、練習……みたいな? いや、星川なら相手には困らないと思うけど」
「そんなことは……ある!」
ドヤ顔で腕を組むキャラスタンプが送られてきた。でも……と彼女は前置きをして、
「下手に相手に期待させたらまずいでしょ。付き合っても好きになれるとは限らないし。だから、私は付き合うなら好きになってからがいいな~」
「付き合わないけど、それに近い体験はしたいと?」
「そうそれ!」
彼女の同意からかなり方向性は見えてきた。要するに、最近流行っている恋人のふりをしたい、という感じだろう。考えを整理していると、星川がねえねえと話しかけてくる。
「ユーもう当てちゃいなよ」
「そうか、なら遠慮なく」
――恋人のふりをして、恋人気分を味わいたい
「うん、正解! 君の答えの方がしっくりくるね」
【星川7 恋人ごっこをしてみたい 🩷】
「なぁ、これって具体的には何をするんだ?」
「そりゃ……色々だよ! ほら、一緒に登校するとかさ」
「あんまり考えてなかったんだな、星川」
「しょうがないじゃん、まだ心の準備が出来てないのです」
「僕もそうだよ。まぁやれるだけやってみよう」
僕らは明日、一先ず駅で集合することを決め、通話を終えた。
◆
次の日の昼間。学校の夏期講習のために制服を着て外へ出ていた。相変わらずの猛暑日で太陽の日差しが容赦なく照り付けるが、人の視線も一心に受けていた。
星川と一緒に登校するだけでなく、恋人繋ぎをしているからに他ならない。
「これ、人前でやるのまずくない?」
「もう諦めなよ、彼氏君。いや~恥ずかしいね、顔が熱いよ」
「ならやめない? もう実行したってことでさ」
「いやでーす」
多くの生徒の目に晒される中、星川は校門に入るまで手を離すのを許してくれなかった。
「水谷、ちょっといいかな? いいよね?」
「えっ……はい」
夏期講習が終わり、皆はすぐに教室を出て行く。僕も終わったことにほっと胸を撫で下ろしていると、ばんっと強く両手を僕の机に置き、怒り心頭の桐野が目の前に現れた。間違いなく星川絡みの話だろう。
あいにく星川は他の科目を受けていて、別の教室にいる。
「愛奈と水谷君が二人で登校した、なんて与太話が噂になっているんだけど、それは本当?」
「あぁ……そうだね、一緒に歩いてきたよ」
「手を繋いでいたのも?」
「うん」
「……愛奈と、付き合ってるの?」
桐野は鬼気迫るような表情で僕を見つめてくるが、正直回答に困る……付き合ってはいないが、曖昧に答えようにも言い方が思いつかなかった。
「わからない。うまく、言葉にできない」
「はぁ?! 愛奈も同じようなこと言ってさ……ふざけないで。あんたが煮え切らない態度を取るから、あの子が変になったんじゃないの?」
「変?」
「そうよ、遊ぶ回数が半分になるし、放課後すぐにどこか行っちゃうし、二人で旅行まで行って……あんたと関わってから、私の愛奈じゃなくなってきてる」
そう言って桐野は腕を組み、僕を見下ろす。
「沙希~お待たせって、どうしたの、二人して?」
ガラガラと教室の扉を開いて星川が姿を見せる。何も知らないためか、きょとんとした表情を浮かべた。桐野は怒気を弱めながらも、僕のことを指差す。
「愛奈、絶対この男は辞めた方が良いよ。このままじゃどんどん愛奈がおかしくなっちゃう」
「え~大丈夫だよ、水谷君は意外と優しいし」
「付き合ってないのに?」
「うん、私は今の関係で満足してるよ」
星川が笑みを浮かべる。おい、それは今の桐野には逆効果だって……
「み、ず、た、に? 宙ぶらりんな関係はダメじゃない、この際ハッキリさせたら?」
「いや、僕達にはこれが丁度良いというか、なんというか」
「は? は? はぁーー?! あんたね……。ならこっちだって考えがある」
「え?」
「愛奈が今一番したいこと、言ってみなよ。仲が良いなら当然分かるよね?」
「い、今?」
「そう、言えなかったらもう二度と愛奈と関わらないで」
「ちょっと、沙希やりすぎじゃない?」
星川が桐野を制し間に入る。眉をひそめ、異を唱えるが……桐野は止まらなかった。
「流石にこれ以上は看過できない。愛奈だって気になるでしょ、コイツの本性」
桐野が両手のこぶしを握り、今にも殴りかねない様子だ。星川を見れば、あっと何かを思いついた様子を見せニシシと笑い始める。
「確かに。一緒に遊んできた君なら分かるよ。私、信じてるから」
星川は余裕の表情で僕にウィンクをした。おいおい、どうすればいいんだ。
「これから愛奈の答えを聞くために二人で教室を出るから。戻ってくるまでに精々考えるといいよ。いこっ愛奈」
「は~い」
二人して楽しそうに教室を出て行った。さて、どうしたものか……周囲の生徒は僕を憐れむような視線を向けたり、ヒソヒソ話をしたりするも、すぐに帰っていく。
僕は残り少ない時間で必死に考えていると、一枚のカードが頭をよぎった。
【星川1 🎆】
なるほど……あのカードを今当てろ、ということか。逃げていたツケをついに払う時がきてしまったらしい。恐らく、星川の願いはそこまで捻ったものではないはず。
これまでのように質問はできない。それなら、シンプルに行こう。僕は星川への答え合わせの意味も込めて、筆記用具と真っ白な自分のトランプを取り出し、急いで手を動かした。
「さて、謝る準備はできたかな? 水谷」
「いいや、全く」
「この……往生際が悪いぞ」
「まぁまぁ沙希。きっと考えがあるんだよ、ね?」
「あぁ、僕は今から星川のやりたいことを当てようと思う」
そう言って僕はトランプを取り出した。
「トランプ? そんなもので何ができるというんだ、水谷」
「今から星川がやりたいことをこのカードに聞こうと思う」
僕は表面が白紙のトランプを取り出し、二人に見せる。その後、トランプを載せた手をもう片方の手で覆ってから、ゆっくりと離していけば、白紙のトランプには色がついていた。
四方に数字の7があり、中央には花火の絵文字が赤色で描かれている。
「星川は、花火を見に行きたい、そうじゃない?」
「うそ……なんで」
「おー大正解! さっすが~」
星川は僕に手を差し出しハイタッチをするが、桐野はあり得ない、と青ざめた表情で呟く。
「ロマンチック……こほん。ちゃんと愛奈のこと分かってるのね」
「そうだよ、彼すごいんだから~」
星川はえっへんと自慢げに僕の肩を叩く。いやはや、緊張した……。これでミスってたらどうなっていたことか。
「……それなら、真っ直ぐに向き合いなさいよ。バカ」
桐野は顔を赤らめながら、捨て台詞を吐いて去っていった。教室には僕らだけが残り、蝉の声が外から聞こえてくる。
「あの子、悪い子じゃないんだ。許してあげて」
「許すも何も、事前説明が足りなかっただろ。ましてや親友じゃないのか?」
「親友……か、そうだね。だからこそ……」
彼女は最後の言葉を濁し、何を言っているのか聞こえなかった。
「え?」
「そ・れ・よ・り・も! 君が書いたカード見せてよ」
星川は突然僕の手から花火のカードを取り出す。そして、ニヤニヤと僕を見て笑った。
「やっぱり! これって君が前に番号だけ描いたカードだよね」
「えっまぁそうだけど……」
「ということは、君も花火に行きたいんだ。そっかそっか、仕方ないな~」
「いやいや、それは星川のカードを当てるために……」
「それはそうだけどさ、裏に願いを描いたら、やりたいことリストになるよね?」
「……確かに」
僕が裏にやりたいことを書いた時点で、裏読みトランプのカードになる条件は揃う。
「最近君のカードは在庫切れだったから当てるチャンスもなかったな~そろそろ私もやりたいな~チラッ」
星川はそのまま目をぱちくりさせて、僕にリストを書くようにせがんでくる。彼女は僕の家に来て以降、カードを作れなかったのは僕の落ち度だ……仕方ない。
「分かった。今考えるから、外でも見てて」
「やった~楽しみ~」
星川はスマホを開き、花火大会の動画を音付きで見始めた。間違いなく行く気だな……。
僕は少しでも自分の意見を通すため、思いついたままにやりたいことを書くことにした。
「こない」
星川はいつも時間通りに掛けてくることが多く、用事がある場合は予め連絡をしてくれていた。まぁ数分遅れて開始することも時々あるし、こんなこともあるかと五分、十分と待っていたが、スマホが揺れることはなかった。
僕は何かあった可能性も考慮し、意を決してこちらから通話をかけてみた。すると、数コール鳴った後、星川が出る。
「も、もしもし。星川、今大丈夫?」
「うん、ど、どうしたの? 君からかけてくるなんて珍しいね」
「いつもの時間だったからさ、裏読みトランプの」
「あっ……ごめん、うっかりしてた」
「何かあったの、電話かけてこないの初めてじゃない?」
「いやぁ……ちょっとね」
珍しく星川は歯切れが悪い。いつになく沈黙が続き、冷房の音が耳に入って来る。
「調子悪いなら、今日は辞める?」
「やる、やりたい」
「なら……いいけど」
星川から写真が送られてくる。通話で裏読みトランプをする時は、今あるカードを写真を撮って送り合うようにしていた。とはいっても、僕が出せるカードは手元にないのだけれど。
彼女のカードは残り五枚。
【星川1 🎆】
【星川6 👑】
【星川7 🩷】
【星川11 ⚡】
【星川13 😊】
僕は未だに一番のカードに触れることを避けていた。最も彼女がやりたいことだからこそ、失敗したくない。だから、他のカードに目を向けたいが、13はこの前彼女が隠したことで触れづらく、11は絵文字が稲妻であることから電流を受けたいのか、と以前言ったら爆笑されてしまった。あまりに見当がつかないので一旦保留にしている。
残りは六と七だが、他と違って二枚だけ隣り合っているのが気になる。これは実のところ、七を避けていたのが大きかった。ハートで高校生のうちにやりたいことと言えば、恋愛しか思いつかなかったから。
「今日はどれにするの?」
「うーん、悩んでる」
「君、ハートだけはとことん避けてるよね」
「えっなんでそれを」
「分かるよー一回も話題にしてないじゃん」
星川はクスクスとからかうように笑う。流石に彼女が気付かないはずがなかった。
「じゃあ……当ててみるよ。いつかはやるんだし」
「うん、それがいいよ。でもなんだか……恥ずかしいね」
「えっ?」
彼女の声が少し上ずっていた。その反応に、僕の予測は確信へと近づいていく。
「一応確認だけどさ、このカードって恋愛系……なの?」
「はは、鈍感な君でも流石に勘づくよね」
「その反応ってことは……まさか」
「高校生のうちにやりたいことリストだよ。入らないわけがないよ」
僕は罠に引っかかったような感覚に陥る。裏読みトランプを始めた時点でもう逃げることはできないのだ。
「それは……なんだ、実際に彼氏彼女になるとか?」
「ふふっなっちゃうのも面白いね。君は好きな人はいるの?」
「いない、けど。星川は?」
「多分いない。初めて付き合うなら、好きな人とちゃんと付き合いたい」
「なるほど」
彼女が話すのが本当なら、裏読みトランプで実際に付き合うというのを書くのは違う気がする。彼女がリストを書いていた時点で好きな人がいたなら既に本末転倒だ。必ず実行するという名目上、誰が相手でもできる形でないとダメだと思う。
「それなら、練習……みたいな? いや、星川なら相手には困らないと思うけど」
「そんなことは……ある!」
ドヤ顔で腕を組むキャラスタンプが送られてきた。でも……と彼女は前置きをして、
「下手に相手に期待させたらまずいでしょ。付き合っても好きになれるとは限らないし。だから、私は付き合うなら好きになってからがいいな~」
「付き合わないけど、それに近い体験はしたいと?」
「そうそれ!」
彼女の同意からかなり方向性は見えてきた。要するに、最近流行っている恋人のふりをしたい、という感じだろう。考えを整理していると、星川がねえねえと話しかけてくる。
「ユーもう当てちゃいなよ」
「そうか、なら遠慮なく」
――恋人のふりをして、恋人気分を味わいたい
「うん、正解! 君の答えの方がしっくりくるね」
【星川7 恋人ごっこをしてみたい 🩷】
「なぁ、これって具体的には何をするんだ?」
「そりゃ……色々だよ! ほら、一緒に登校するとかさ」
「あんまり考えてなかったんだな、星川」
「しょうがないじゃん、まだ心の準備が出来てないのです」
「僕もそうだよ。まぁやれるだけやってみよう」
僕らは明日、一先ず駅で集合することを決め、通話を終えた。
◆
次の日の昼間。学校の夏期講習のために制服を着て外へ出ていた。相変わらずの猛暑日で太陽の日差しが容赦なく照り付けるが、人の視線も一心に受けていた。
星川と一緒に登校するだけでなく、恋人繋ぎをしているからに他ならない。
「これ、人前でやるのまずくない?」
「もう諦めなよ、彼氏君。いや~恥ずかしいね、顔が熱いよ」
「ならやめない? もう実行したってことでさ」
「いやでーす」
多くの生徒の目に晒される中、星川は校門に入るまで手を離すのを許してくれなかった。
「水谷、ちょっといいかな? いいよね?」
「えっ……はい」
夏期講習が終わり、皆はすぐに教室を出て行く。僕も終わったことにほっと胸を撫で下ろしていると、ばんっと強く両手を僕の机に置き、怒り心頭の桐野が目の前に現れた。間違いなく星川絡みの話だろう。
あいにく星川は他の科目を受けていて、別の教室にいる。
「愛奈と水谷君が二人で登校した、なんて与太話が噂になっているんだけど、それは本当?」
「あぁ……そうだね、一緒に歩いてきたよ」
「手を繋いでいたのも?」
「うん」
「……愛奈と、付き合ってるの?」
桐野は鬼気迫るような表情で僕を見つめてくるが、正直回答に困る……付き合ってはいないが、曖昧に答えようにも言い方が思いつかなかった。
「わからない。うまく、言葉にできない」
「はぁ?! 愛奈も同じようなこと言ってさ……ふざけないで。あんたが煮え切らない態度を取るから、あの子が変になったんじゃないの?」
「変?」
「そうよ、遊ぶ回数が半分になるし、放課後すぐにどこか行っちゃうし、二人で旅行まで行って……あんたと関わってから、私の愛奈じゃなくなってきてる」
そう言って桐野は腕を組み、僕を見下ろす。
「沙希~お待たせって、どうしたの、二人して?」
ガラガラと教室の扉を開いて星川が姿を見せる。何も知らないためか、きょとんとした表情を浮かべた。桐野は怒気を弱めながらも、僕のことを指差す。
「愛奈、絶対この男は辞めた方が良いよ。このままじゃどんどん愛奈がおかしくなっちゃう」
「え~大丈夫だよ、水谷君は意外と優しいし」
「付き合ってないのに?」
「うん、私は今の関係で満足してるよ」
星川が笑みを浮かべる。おい、それは今の桐野には逆効果だって……
「み、ず、た、に? 宙ぶらりんな関係はダメじゃない、この際ハッキリさせたら?」
「いや、僕達にはこれが丁度良いというか、なんというか」
「は? は? はぁーー?! あんたね……。ならこっちだって考えがある」
「え?」
「愛奈が今一番したいこと、言ってみなよ。仲が良いなら当然分かるよね?」
「い、今?」
「そう、言えなかったらもう二度と愛奈と関わらないで」
「ちょっと、沙希やりすぎじゃない?」
星川が桐野を制し間に入る。眉をひそめ、異を唱えるが……桐野は止まらなかった。
「流石にこれ以上は看過できない。愛奈だって気になるでしょ、コイツの本性」
桐野が両手のこぶしを握り、今にも殴りかねない様子だ。星川を見れば、あっと何かを思いついた様子を見せニシシと笑い始める。
「確かに。一緒に遊んできた君なら分かるよ。私、信じてるから」
星川は余裕の表情で僕にウィンクをした。おいおい、どうすればいいんだ。
「これから愛奈の答えを聞くために二人で教室を出るから。戻ってくるまでに精々考えるといいよ。いこっ愛奈」
「は~い」
二人して楽しそうに教室を出て行った。さて、どうしたものか……周囲の生徒は僕を憐れむような視線を向けたり、ヒソヒソ話をしたりするも、すぐに帰っていく。
僕は残り少ない時間で必死に考えていると、一枚のカードが頭をよぎった。
【星川1 🎆】
なるほど……あのカードを今当てろ、ということか。逃げていたツケをついに払う時がきてしまったらしい。恐らく、星川の願いはそこまで捻ったものではないはず。
これまでのように質問はできない。それなら、シンプルに行こう。僕は星川への答え合わせの意味も込めて、筆記用具と真っ白な自分のトランプを取り出し、急いで手を動かした。
「さて、謝る準備はできたかな? 水谷」
「いいや、全く」
「この……往生際が悪いぞ」
「まぁまぁ沙希。きっと考えがあるんだよ、ね?」
「あぁ、僕は今から星川のやりたいことを当てようと思う」
そう言って僕はトランプを取り出した。
「トランプ? そんなもので何ができるというんだ、水谷」
「今から星川がやりたいことをこのカードに聞こうと思う」
僕は表面が白紙のトランプを取り出し、二人に見せる。その後、トランプを載せた手をもう片方の手で覆ってから、ゆっくりと離していけば、白紙のトランプには色がついていた。
四方に数字の7があり、中央には花火の絵文字が赤色で描かれている。
「星川は、花火を見に行きたい、そうじゃない?」
「うそ……なんで」
「おー大正解! さっすが~」
星川は僕に手を差し出しハイタッチをするが、桐野はあり得ない、と青ざめた表情で呟く。
「ロマンチック……こほん。ちゃんと愛奈のこと分かってるのね」
「そうだよ、彼すごいんだから~」
星川はえっへんと自慢げに僕の肩を叩く。いやはや、緊張した……。これでミスってたらどうなっていたことか。
「……それなら、真っ直ぐに向き合いなさいよ。バカ」
桐野は顔を赤らめながら、捨て台詞を吐いて去っていった。教室には僕らだけが残り、蝉の声が外から聞こえてくる。
「あの子、悪い子じゃないんだ。許してあげて」
「許すも何も、事前説明が足りなかっただろ。ましてや親友じゃないのか?」
「親友……か、そうだね。だからこそ……」
彼女は最後の言葉を濁し、何を言っているのか聞こえなかった。
「え?」
「そ・れ・よ・り・も! 君が書いたカード見せてよ」
星川は突然僕の手から花火のカードを取り出す。そして、ニヤニヤと僕を見て笑った。
「やっぱり! これって君が前に番号だけ描いたカードだよね」
「えっまぁそうだけど……」
「ということは、君も花火に行きたいんだ。そっかそっか、仕方ないな~」
「いやいや、それは星川のカードを当てるために……」
「それはそうだけどさ、裏に願いを描いたら、やりたいことリストになるよね?」
「……確かに」
僕が裏にやりたいことを書いた時点で、裏読みトランプのカードになる条件は揃う。
「最近君のカードは在庫切れだったから当てるチャンスもなかったな~そろそろ私もやりたいな~チラッ」
星川はそのまま目をぱちくりさせて、僕にリストを書くようにせがんでくる。彼女は僕の家に来て以降、カードを作れなかったのは僕の落ち度だ……仕方ない。
「分かった。今考えるから、外でも見てて」
「やった~楽しみ~」
星川はスマホを開き、花火大会の動画を音付きで見始めた。間違いなく行く気だな……。
僕は少しでも自分の意見を通すため、思いついたままにやりたいことを書くことにした。

