「もしもーし、おまたせ~」
「うん、おはよう!」
「あれ、声明るくない? げっそりしてるかと思ったけど」
「疲れはあるけど、なんかスッキリしてさ。夜更かしも悪くないなって」
「へ~君にしては珍しいね、どうしてそう思えたの?」
「そうだな……」
僕は改めて思考を巡らせてみる。事実ベースで考えれば深夜にお菓子を食べて、ゲームをして、星川と話をした、それだけだ。喉は少し痛むし、体全身が疲れていてだるさもある。
一般的に考えれば不摂生で喜ばしいことではないし、これまでは避けるようにしていた。
意味なんて特にない、裏読みトランプの一環という目的しかないのに。
こんなに楽しい気持ちだけで過ごせたのは、久しぶりだ。いつかは思い出せないけれど、体全身に血が通うような感覚がある。
「好き勝手にバカやれたから、かな。他に思いつかない」
「ふふっ変なの~でもいいね、イキイキしてるよ」
「なんか、初めて高校生らしいことしたいって思った。大それたことはしなくていい、楽しいって思えることなら、なんでも」
「本当に?! 今の気持ちを絵文字で例えたら何になりそう?」
「探してみるよ」
僕は絵文字サイトを開き、一覧からずらーっと並ぶ絵文字を見つめ、スクロールする。
今は体全身に力がみなぎっていて、それを活かせるようなものにしたい。
内にある感覚と照らし合わせる中で、ある一つの答えに辿り着いた。
「これは面白いかも」
「なになに、見せてよ」
【水谷5 高校生らしいことをしたい 🕺🏽】
「まさかのダンス? 深夜テンションすぎない?!」
スマホ越しに星川のバカ笑いが聞こえてきた。僕もつられて笑ってしまう。
「でしょ、これとかは?」
と、バニー姿の男性👯♂️も送ってみる。
「ははは、面白すぎ」
この後は大喜利のように絵文字を出し合って遊び、残り時間を過ごした。
僕達は初めて朝七時三十分に校門で集合し、運動部の掛け声と僕らの足音だけが聞こえてくる中、教室へ向かう。
扉を開けると、時間が止まったかのように教室は静寂に包まれていた。
「やった~一番乗り!」
「うわっ教室暑いな……いつも誰かが付けてくれてたんだな」
「だね~今日は私達が皆を涼めてしんぜよう」
星川がエアコンのリモコンを操作し、僕は部屋の明かりをつけた。荷物を机の上に置き、僕らはそれぞれの席に座る。特にすることもなく、星川は僕の方を向き、椅子を回転させた。
「ねぇ、このあと何する?」
「うーん……夜に散々遊んだしな、寝る?」
「えーそれはもったいない。あっそうだ。朝、君はやりたいこと、見つけたよね?」
「あぁ、そうだったな」
僕はスマホのチャット画面を開き、内容を確認する。
【水谷5 高校生らしいことをしたい 🕺🏽】
「これ、今から早速叶えちゃおうよ」
「えっ? 当て合いとかは……するまでもないか、もう言っちゃってるし」
「そ、朝のこの時間だからこそ、できることがあると思うんだよね」
「うーん、例えば?」
「そうだね……あっ落書きとか? 黒板は使い放題、だよ」
そう言って、星川は黒板へ向かい、白いチョークで何かを描き始める。迷いなく彼女の手は動き続け、一分程で絵が完成した。
「じゃーん、誰でしょう?」
男性の面長な顔だ。髪は短髪であり、角張ったフレームの眼鏡をかけている。そして、目線は手元に向けられ、トランプを弄っていた。
ん、これは……
「まさか、僕?!」
「正解!」
「めっちゃ似てる、よく一瞬で描けたね」
「でしょ~君もこっちきてやろうよ!」
星川はにかっと笑い、僕に手招きしてくる。だが、少し腰が重かった。
「絵を描くのは苦手なんだけど」
「落書きだから何を描いても正解だよ」
「……分かった。でも絶対笑うなよ」
僕は席を立ち、黒板の前で白いチョークを手に取った。
「君次第かな~笑わないよう善処するよ」
「はいはい」
僕らは各々落書きを始めた。何でもいいとは言われたが、描くものは決めないといけない。
右側にいる星川に目を向ければ、鼻歌交じりに他の人を描き始めていた。
僕も誰かを描こうと思ったが、ぱっと顔が思い浮かばない。描けるとしたら星川しかいなかった。チラッと彼女を見た後、僕は黒板に落書きを始める。
頭の輪郭から始め、彼女のトレードマークであるお団子ヘアを描く。
星川は何時も笑っていて、ドヤ顔するイメージがある。つり眉、丸っこい小さな目、すっと通った鼻筋、大きく開けた口とそれぞれのパーツを本人と濃く書いていく。
ドヤ顔を強調するために、鼻息も追加。
ついでに両腕も組ませてみた。うん、悪くない。
気付けば五分以上経っていた。
「さてさて~私は描けたけどって、は、は、鼻の穴でっか、それに顔めっちゃ濃い」
星川は僕の絵を見ると、吹き出して笑い始めた。
「おい、笑うなっていっただろ」
「だってさ、鼻息荒すぎでしょ。これって私だよね?」
「うん」
「そんな真顔で言わないでよ。へー君から見ると私ってこうなんだ」
星川は笑いながらも、僕の書いた絵をじっくりと眺めている。特徴は掴めていたようで、その点は褒めてくれたが、いかんせんドヤ顔に振り切りすぎたらしい。その強いパンチが良くも悪くも残念ポイントと言われてしまった。
「私のも見てよ」
彼女が指差す右半分の黒板を見ると、クラスメイトの顔が沢山書いてあった。いつもいる女子グループの面々もいるが、桐野はより丁寧に描かれている。
ポニーテールの髪型としかめっ面、そして、こちらに指さす手が校則にうるさい桐野らしさを表していた。
「どれも、一目で誰だかわかるな。特に桐野が一番気合入ってる気がする」
「そうでしょ~私の親友だからね、ちょっとキリっとさせ過ぎたかも」
「もし見られたら怒られるぞ」
「だね。写真撮ったら消そうかな」
星川は記念にと黒板の写真を撮り終えた直後、廊下の方から足音が聞こえてくる。時刻を見れば七時五十分を回り、誰がきてもおかしくない時間だった。
「やばっ誰か来る」
「とにかく消せるだけ消そう」
僕らは黒板消しを手に取り、急いで落書きを消そうとするが、足音はドンドン大きくなり、半分も消し終える前に教室の扉が開いてしまう。
「あれっ明かりがついてるって……愛奈?! 朝から早いね」
「さ、沙希。おはよ~はは」
教室に現れたのは桐野だった。物珍し顔でこちらを見つめるが、星川はあちゃーと頭に手を置く。困っているのは僕も一緒だ。
「黒板で何してるの? ん、愛奈の顔が、ぷっ」
桐野が堪えきれず笑い始めた。
「愛奈の顔ドヤってし過ぎ。まぁ分かるけどさ」
「えー沙希もそう思う? 私こんな顔してないよー」
「カッコつけてる時はたまにあるよ。ふーそれで、なんで水谷もいるの?」
桐野は僕にいつもの鋭い視線を向けてくる。星川に見せる態度とはまるで違う。星川が描いたしかめっ面そのものだった。
ヤバい、どう言い訳しようか。星川との関係や裏読みトランプの存在はバレてはいけない。バレたら僕のまずい写真が出回り、高校生活が詰む。クラスメイトで偶然を装って何とかなるか……。
「今日は早朝に目が覚めたから早く来たんだよ。そしたら星川がいてさ、話してたんだ」
嘘はついていない。まぁ寝てないだけだが。
「じゃあこの絵はどう説明するの? それに、なんで愛奈と一緒に描いてるし、不用意に黒板を汚すのはマナー上ダメでしょ、それに……ズルい」
桐野は不満げな表情を浮かべ、スクールバッグのショルダーを支える右手で拳を作る。そんなに怒ることか。
「それは……あっあれだよ。絵を教えてもらってたんだ、美術の授業で今度自画像をやるだろ、それの練習に付き合ってもらってて」
「そうそう、いつの間にか楽しくなっちゃって。黒板に描いちゃった」
僕の緊張とは裏腹に、星川の表情は穏やかで普段と変わらない。本当に大丈夫なのかと、心配になってしまう。
だが、予想に反して桐野は目を光らせる。
「流石愛奈! ほぼ喋らないクラスメイトにも手を差し伸べるなんて、優しいね」
「そんなことないよ~」
「でも、黒板を使うのはダメ。皆が来る前に消さないと、私も手伝うからさ」
「ありがとう~頼りになる!」
どうなるかと思いきやあっさりと問題は解決し、星川と桐野は仲良く黒板を綺麗にしていく。
星川は端から丁寧に拭きながら、僕には一瞬だけにやけた顔を見せる。
星川は桐野がすぐに納得するのをわかっていたらしい。それならそうと合図をくれれば良かったのにと不満に思い、僕は肩をすくませた。
その後体力の限界が来たのか強い眠気に襲われてしまう。しかし、音楽の授業で星川の音程が中々合わずに苦戦していたのがあまりに強烈で、目が冴えた。
「うん、おはよう!」
「あれ、声明るくない? げっそりしてるかと思ったけど」
「疲れはあるけど、なんかスッキリしてさ。夜更かしも悪くないなって」
「へ~君にしては珍しいね、どうしてそう思えたの?」
「そうだな……」
僕は改めて思考を巡らせてみる。事実ベースで考えれば深夜にお菓子を食べて、ゲームをして、星川と話をした、それだけだ。喉は少し痛むし、体全身が疲れていてだるさもある。
一般的に考えれば不摂生で喜ばしいことではないし、これまでは避けるようにしていた。
意味なんて特にない、裏読みトランプの一環という目的しかないのに。
こんなに楽しい気持ちだけで過ごせたのは、久しぶりだ。いつかは思い出せないけれど、体全身に血が通うような感覚がある。
「好き勝手にバカやれたから、かな。他に思いつかない」
「ふふっ変なの~でもいいね、イキイキしてるよ」
「なんか、初めて高校生らしいことしたいって思った。大それたことはしなくていい、楽しいって思えることなら、なんでも」
「本当に?! 今の気持ちを絵文字で例えたら何になりそう?」
「探してみるよ」
僕は絵文字サイトを開き、一覧からずらーっと並ぶ絵文字を見つめ、スクロールする。
今は体全身に力がみなぎっていて、それを活かせるようなものにしたい。
内にある感覚と照らし合わせる中で、ある一つの答えに辿り着いた。
「これは面白いかも」
「なになに、見せてよ」
【水谷5 高校生らしいことをしたい 🕺🏽】
「まさかのダンス? 深夜テンションすぎない?!」
スマホ越しに星川のバカ笑いが聞こえてきた。僕もつられて笑ってしまう。
「でしょ、これとかは?」
と、バニー姿の男性👯♂️も送ってみる。
「ははは、面白すぎ」
この後は大喜利のように絵文字を出し合って遊び、残り時間を過ごした。
僕達は初めて朝七時三十分に校門で集合し、運動部の掛け声と僕らの足音だけが聞こえてくる中、教室へ向かう。
扉を開けると、時間が止まったかのように教室は静寂に包まれていた。
「やった~一番乗り!」
「うわっ教室暑いな……いつも誰かが付けてくれてたんだな」
「だね~今日は私達が皆を涼めてしんぜよう」
星川がエアコンのリモコンを操作し、僕は部屋の明かりをつけた。荷物を机の上に置き、僕らはそれぞれの席に座る。特にすることもなく、星川は僕の方を向き、椅子を回転させた。
「ねぇ、このあと何する?」
「うーん……夜に散々遊んだしな、寝る?」
「えーそれはもったいない。あっそうだ。朝、君はやりたいこと、見つけたよね?」
「あぁ、そうだったな」
僕はスマホのチャット画面を開き、内容を確認する。
【水谷5 高校生らしいことをしたい 🕺🏽】
「これ、今から早速叶えちゃおうよ」
「えっ? 当て合いとかは……するまでもないか、もう言っちゃってるし」
「そ、朝のこの時間だからこそ、できることがあると思うんだよね」
「うーん、例えば?」
「そうだね……あっ落書きとか? 黒板は使い放題、だよ」
そう言って、星川は黒板へ向かい、白いチョークで何かを描き始める。迷いなく彼女の手は動き続け、一分程で絵が完成した。
「じゃーん、誰でしょう?」
男性の面長な顔だ。髪は短髪であり、角張ったフレームの眼鏡をかけている。そして、目線は手元に向けられ、トランプを弄っていた。
ん、これは……
「まさか、僕?!」
「正解!」
「めっちゃ似てる、よく一瞬で描けたね」
「でしょ~君もこっちきてやろうよ!」
星川はにかっと笑い、僕に手招きしてくる。だが、少し腰が重かった。
「絵を描くのは苦手なんだけど」
「落書きだから何を描いても正解だよ」
「……分かった。でも絶対笑うなよ」
僕は席を立ち、黒板の前で白いチョークを手に取った。
「君次第かな~笑わないよう善処するよ」
「はいはい」
僕らは各々落書きを始めた。何でもいいとは言われたが、描くものは決めないといけない。
右側にいる星川に目を向ければ、鼻歌交じりに他の人を描き始めていた。
僕も誰かを描こうと思ったが、ぱっと顔が思い浮かばない。描けるとしたら星川しかいなかった。チラッと彼女を見た後、僕は黒板に落書きを始める。
頭の輪郭から始め、彼女のトレードマークであるお団子ヘアを描く。
星川は何時も笑っていて、ドヤ顔するイメージがある。つり眉、丸っこい小さな目、すっと通った鼻筋、大きく開けた口とそれぞれのパーツを本人と濃く書いていく。
ドヤ顔を強調するために、鼻息も追加。
ついでに両腕も組ませてみた。うん、悪くない。
気付けば五分以上経っていた。
「さてさて~私は描けたけどって、は、は、鼻の穴でっか、それに顔めっちゃ濃い」
星川は僕の絵を見ると、吹き出して笑い始めた。
「おい、笑うなっていっただろ」
「だってさ、鼻息荒すぎでしょ。これって私だよね?」
「うん」
「そんな真顔で言わないでよ。へー君から見ると私ってこうなんだ」
星川は笑いながらも、僕の書いた絵をじっくりと眺めている。特徴は掴めていたようで、その点は褒めてくれたが、いかんせんドヤ顔に振り切りすぎたらしい。その強いパンチが良くも悪くも残念ポイントと言われてしまった。
「私のも見てよ」
彼女が指差す右半分の黒板を見ると、クラスメイトの顔が沢山書いてあった。いつもいる女子グループの面々もいるが、桐野はより丁寧に描かれている。
ポニーテールの髪型としかめっ面、そして、こちらに指さす手が校則にうるさい桐野らしさを表していた。
「どれも、一目で誰だかわかるな。特に桐野が一番気合入ってる気がする」
「そうでしょ~私の親友だからね、ちょっとキリっとさせ過ぎたかも」
「もし見られたら怒られるぞ」
「だね。写真撮ったら消そうかな」
星川は記念にと黒板の写真を撮り終えた直後、廊下の方から足音が聞こえてくる。時刻を見れば七時五十分を回り、誰がきてもおかしくない時間だった。
「やばっ誰か来る」
「とにかく消せるだけ消そう」
僕らは黒板消しを手に取り、急いで落書きを消そうとするが、足音はドンドン大きくなり、半分も消し終える前に教室の扉が開いてしまう。
「あれっ明かりがついてるって……愛奈?! 朝から早いね」
「さ、沙希。おはよ~はは」
教室に現れたのは桐野だった。物珍し顔でこちらを見つめるが、星川はあちゃーと頭に手を置く。困っているのは僕も一緒だ。
「黒板で何してるの? ん、愛奈の顔が、ぷっ」
桐野が堪えきれず笑い始めた。
「愛奈の顔ドヤってし過ぎ。まぁ分かるけどさ」
「えー沙希もそう思う? 私こんな顔してないよー」
「カッコつけてる時はたまにあるよ。ふーそれで、なんで水谷もいるの?」
桐野は僕にいつもの鋭い視線を向けてくる。星川に見せる態度とはまるで違う。星川が描いたしかめっ面そのものだった。
ヤバい、どう言い訳しようか。星川との関係や裏読みトランプの存在はバレてはいけない。バレたら僕のまずい写真が出回り、高校生活が詰む。クラスメイトで偶然を装って何とかなるか……。
「今日は早朝に目が覚めたから早く来たんだよ。そしたら星川がいてさ、話してたんだ」
嘘はついていない。まぁ寝てないだけだが。
「じゃあこの絵はどう説明するの? それに、なんで愛奈と一緒に描いてるし、不用意に黒板を汚すのはマナー上ダメでしょ、それに……ズルい」
桐野は不満げな表情を浮かべ、スクールバッグのショルダーを支える右手で拳を作る。そんなに怒ることか。
「それは……あっあれだよ。絵を教えてもらってたんだ、美術の授業で今度自画像をやるだろ、それの練習に付き合ってもらってて」
「そうそう、いつの間にか楽しくなっちゃって。黒板に描いちゃった」
僕の緊張とは裏腹に、星川の表情は穏やかで普段と変わらない。本当に大丈夫なのかと、心配になってしまう。
だが、予想に反して桐野は目を光らせる。
「流石愛奈! ほぼ喋らないクラスメイトにも手を差し伸べるなんて、優しいね」
「そんなことないよ~」
「でも、黒板を使うのはダメ。皆が来る前に消さないと、私も手伝うからさ」
「ありがとう~頼りになる!」
どうなるかと思いきやあっさりと問題は解決し、星川と桐野は仲良く黒板を綺麗にしていく。
星川は端から丁寧に拭きながら、僕には一瞬だけにやけた顔を見せる。
星川は桐野がすぐに納得するのをわかっていたらしい。それならそうと合図をくれれば良かったのにと不満に思い、僕は肩をすくませた。
その後体力の限界が来たのか強い眠気に襲われてしまう。しかし、音楽の授業で星川の音程が中々合わずに苦戦していたのがあまりに強烈で、目が冴えた。

