サボり決行の日。
今日は四限の授業が休みで自習となっている。担任の先生は最初だけ僕らを見渡し、「他クラスに迷惑をかけなければ自由に過ごして良し」とだけ言い残して職員室へ戻っていった。あの先生は結構テキトーなので帰ってこないことは分かっている。
教室は少しガヤガヤしており、ヒソヒソ話を楽しむ生徒や早弁をする生徒、勉強に勤しむ生徒もいた。
桐野は周囲を見渡している。自習をしない生徒を注意したいのだろう。ただ、先生が自由にして良いと言った手前、下手に言えないのが歯痒いようだ。
数分もしないうちに桐野は諦め、ペンを手に取っている。
お手洗いも自由であるため、教室を出ても違和感はない。檜山に目配せをした後、僕はロッカーから私服のTシャツ入りの袋をさっと手に取り、彼女より先に教室の外へ出た。
念のため、保険として檜山に何かあったら誤魔化してほしいと頼んでいる。お礼に今度飯を奢らなくてはならなくなったが、背に腹は代えられない。星川も予め桐野達に昼食は一緒に食べられないと伝えているらしかった。
トイレで着替え、周囲の足音に注意を払いながら裏門まで辿り着いた。幸い上履きは運動靴に近いデザインのため、違和感はない。
その後、星川もすぐ抜け出せたようで、トートバッグを片手にこちらへ駆け寄って来る。
「お待たせ~めっちゃドキドキしたよ」
星川の服装は、白シャツにショートデニムパンツと僕と違って下だけ着替えていた。
「えっ星川、その服にしては早かったね」
「実はスカートに下に履いてきてるんだ~策士でしょ」
いぇーいと言ってピースしてくる。準備周到で驚いた。
「よし、バレないうちにいこっか。ふふ、楽しみだな~」
彼女は足を弾ませ、鼻歌を歌いながら歩く。僕は恐る恐る周囲を警戒しつつ歩いた。
僕達は十分ほど歩いて、駅地下のファミレスに入ることにした。普段いかない場所へ入るのもありだったが、昼食も済ませる必要があるため、手っ取り早い方を選択。
お昼のファミレスは結構混んでいて、紛れるにもちょうど良かった。
「たまに皆で遊ぶときにくるんだけど、今日はなんか景色が違うんだよね」
「確かに、日常なのに非日常って感じがする」
「それ! 皆は授業中なのに外にいる背徳感、たまらない~さぁて、注文注文!」
星川は意気揚々とメニュー表を開き、机の上に僕にも見えるように置いてくれる。そして、二人であーだこーだと話し合う中で、シェアしつつ沢山食べることになった。サラダ、ドリアにハンバーグステーキ、コーンピザ、デザートはプリンにティラミスを選択。
暫くすると、机の上にはこれでもかと料理が並べられ、美味しそうな匂いが漂う。壮観だ。
「きたきた! ねえ写真撮ろうよ」
「おーいつものカメラ持ってきたんだ。見慣れてるものを敢えて取る必要あるの? 夢の国に行く時は分かる気もするけどさ」
そう素直に意見を言うと、星川は両手を上に上げて肩をすくめた。
「やれやれ、君は今の特別さが分かってなかったみたいだね~。初めて学校をサボった日だもん。記念写真を撮らないでいつ撮るの?」
彼女はトートバッグからピンク色のインスタントカメラを取り出す。このカメラは夢の国に行った時から見かけているもので、思い出になるからと色々撮影しているようだ。隠し撮りをされていたようで、走り回った後のヘトヘトな僕の写真を見せられたことがある。
「とるよー君もよってよって」
「はいはい」
パシャリ。ウィーン。すぐに写真がプリントアウトして出てきた。
「いや~最近のカメラは便利だよね。すぐチェキにできるし、色んな機能があってさ」
「そうだな、星川の場合ブレてるのが玉に瑕だけど」
「しょーがないじゃん。手がプルプル震えちゃうんだから」
現に星川がカメラを持つ手は小刻みに揺れていた。運動神経はあるようだが、止まり続けることは苦手らしい。いつも動き回っている彼女らしいとも思えた。
「冷めないうちに早く食べちゃお。時間もないし」
「了解」
僕らは料理を分け合いながら、思い思いに料理を楽しみ尽くした。
時刻が十三時を過ぎた頃、僕達は細心の注意を払いながらなんとか学校に忍び込み、教室の前まで辿り着く。今さらだが、よくバレずに済んだなと自分を褒め称えたい気持ちになる。
「今なら沙希がいない、チャンス! じゃっわたし先にいくから」
「おっけー僕は自販機で飲み物でも買ってから教室に入るよ」
「はいはーい」
星川は教室に入っていく。「愛奈おかえり」「どこ行ってたの~」と女子の声が聞こえてくる。まぁ彼女なら難なく切り抜けるだろう。
僕は教室の反対方向に体を向け、奥の渡り廊下にある自販機に向けて歩き始める。
すると、正面から桐野がパックのジュースを片手に歩いてきているのが見えた。普段であれば凛とした振る舞いで歩いている印象だが、今日はどこか落ち着きがない。
彼女は左右を見渡し、他クラスの教室の中をじっと見つめたり、廊下の窓越しに中庭を見ている。生徒会役員というのもあって、学校の見回りだろうか。
僕がいなかったことは把握していてもおかしくない。面倒なことにならないように、左横に見える階段にのぼってお茶を濁そう……と思った途端、
「水谷、ちょっといいか?」
「え」
どうしようかと考える間もなく、桐野は速足で僕の前に現れ、獲物を捕らえたかのように鋭い眼光で見つめてくる。彼女は額から汗が出て前髪が崩れており、余裕はなさそうだ。
「な、なにか用?」
「お前、四限の時間いなかっただろ。何してたんだ?」
やっぱりバレてたか……だが言い訳は用意してある。
「えっと……ちょっとお腹が痛くてトイレに籠ってたんだ」
「本当か? それにしては昼休みギリギリまで帰ってこなかったよな。愛奈もずっと帰ってこないし……さては水谷、何かしたのか」
「いやいやいや、何もしてないって。僕はその後に食堂でご飯を済ませただけ。それに、さっき星川が教室に入っていくのを見たよ」
「何?! すぐに行かなくては。お腹冷やさないように気を付けて過ごすんだぞ」
「う、うん。ありがと」
お礼を言い終える前に桐野は教室へ向かっていってしまった。あっぶな……事前に考えてなかったらボロが出ていたかもしれない。ただ、星川の所在が分かったのが大きかったようで、僕への詰問が甘くなったのは非常に助かった。僕より先に戻った彼女は大変かもしれないが、何があっても僕の預かり知る所ではない。
はーっと一回ため息をつきながら、自販機に行き、特段甘いコーヒー牛乳を買う。その後、授業開始のチャイムが鳴り終える頃に席へ着く。
授業開始直後、僕の前に座る星川は後ろ投げで一枚の紙きれを投げ込んできた。
――沙希に息できない程抱きつかれて死にかけた😇
今日は四限の授業が休みで自習となっている。担任の先生は最初だけ僕らを見渡し、「他クラスに迷惑をかけなければ自由に過ごして良し」とだけ言い残して職員室へ戻っていった。あの先生は結構テキトーなので帰ってこないことは分かっている。
教室は少しガヤガヤしており、ヒソヒソ話を楽しむ生徒や早弁をする生徒、勉強に勤しむ生徒もいた。
桐野は周囲を見渡している。自習をしない生徒を注意したいのだろう。ただ、先生が自由にして良いと言った手前、下手に言えないのが歯痒いようだ。
数分もしないうちに桐野は諦め、ペンを手に取っている。
お手洗いも自由であるため、教室を出ても違和感はない。檜山に目配せをした後、僕はロッカーから私服のTシャツ入りの袋をさっと手に取り、彼女より先に教室の外へ出た。
念のため、保険として檜山に何かあったら誤魔化してほしいと頼んでいる。お礼に今度飯を奢らなくてはならなくなったが、背に腹は代えられない。星川も予め桐野達に昼食は一緒に食べられないと伝えているらしかった。
トイレで着替え、周囲の足音に注意を払いながら裏門まで辿り着いた。幸い上履きは運動靴に近いデザインのため、違和感はない。
その後、星川もすぐ抜け出せたようで、トートバッグを片手にこちらへ駆け寄って来る。
「お待たせ~めっちゃドキドキしたよ」
星川の服装は、白シャツにショートデニムパンツと僕と違って下だけ着替えていた。
「えっ星川、その服にしては早かったね」
「実はスカートに下に履いてきてるんだ~策士でしょ」
いぇーいと言ってピースしてくる。準備周到で驚いた。
「よし、バレないうちにいこっか。ふふ、楽しみだな~」
彼女は足を弾ませ、鼻歌を歌いながら歩く。僕は恐る恐る周囲を警戒しつつ歩いた。
僕達は十分ほど歩いて、駅地下のファミレスに入ることにした。普段いかない場所へ入るのもありだったが、昼食も済ませる必要があるため、手っ取り早い方を選択。
お昼のファミレスは結構混んでいて、紛れるにもちょうど良かった。
「たまに皆で遊ぶときにくるんだけど、今日はなんか景色が違うんだよね」
「確かに、日常なのに非日常って感じがする」
「それ! 皆は授業中なのに外にいる背徳感、たまらない~さぁて、注文注文!」
星川は意気揚々とメニュー表を開き、机の上に僕にも見えるように置いてくれる。そして、二人であーだこーだと話し合う中で、シェアしつつ沢山食べることになった。サラダ、ドリアにハンバーグステーキ、コーンピザ、デザートはプリンにティラミスを選択。
暫くすると、机の上にはこれでもかと料理が並べられ、美味しそうな匂いが漂う。壮観だ。
「きたきた! ねえ写真撮ろうよ」
「おーいつものカメラ持ってきたんだ。見慣れてるものを敢えて取る必要あるの? 夢の国に行く時は分かる気もするけどさ」
そう素直に意見を言うと、星川は両手を上に上げて肩をすくめた。
「やれやれ、君は今の特別さが分かってなかったみたいだね~。初めて学校をサボった日だもん。記念写真を撮らないでいつ撮るの?」
彼女はトートバッグからピンク色のインスタントカメラを取り出す。このカメラは夢の国に行った時から見かけているもので、思い出になるからと色々撮影しているようだ。隠し撮りをされていたようで、走り回った後のヘトヘトな僕の写真を見せられたことがある。
「とるよー君もよってよって」
「はいはい」
パシャリ。ウィーン。すぐに写真がプリントアウトして出てきた。
「いや~最近のカメラは便利だよね。すぐチェキにできるし、色んな機能があってさ」
「そうだな、星川の場合ブレてるのが玉に瑕だけど」
「しょーがないじゃん。手がプルプル震えちゃうんだから」
現に星川がカメラを持つ手は小刻みに揺れていた。運動神経はあるようだが、止まり続けることは苦手らしい。いつも動き回っている彼女らしいとも思えた。
「冷めないうちに早く食べちゃお。時間もないし」
「了解」
僕らは料理を分け合いながら、思い思いに料理を楽しみ尽くした。
時刻が十三時を過ぎた頃、僕達は細心の注意を払いながらなんとか学校に忍び込み、教室の前まで辿り着く。今さらだが、よくバレずに済んだなと自分を褒め称えたい気持ちになる。
「今なら沙希がいない、チャンス! じゃっわたし先にいくから」
「おっけー僕は自販機で飲み物でも買ってから教室に入るよ」
「はいはーい」
星川は教室に入っていく。「愛奈おかえり」「どこ行ってたの~」と女子の声が聞こえてくる。まぁ彼女なら難なく切り抜けるだろう。
僕は教室の反対方向に体を向け、奥の渡り廊下にある自販機に向けて歩き始める。
すると、正面から桐野がパックのジュースを片手に歩いてきているのが見えた。普段であれば凛とした振る舞いで歩いている印象だが、今日はどこか落ち着きがない。
彼女は左右を見渡し、他クラスの教室の中をじっと見つめたり、廊下の窓越しに中庭を見ている。生徒会役員というのもあって、学校の見回りだろうか。
僕がいなかったことは把握していてもおかしくない。面倒なことにならないように、左横に見える階段にのぼってお茶を濁そう……と思った途端、
「水谷、ちょっといいか?」
「え」
どうしようかと考える間もなく、桐野は速足で僕の前に現れ、獲物を捕らえたかのように鋭い眼光で見つめてくる。彼女は額から汗が出て前髪が崩れており、余裕はなさそうだ。
「な、なにか用?」
「お前、四限の時間いなかっただろ。何してたんだ?」
やっぱりバレてたか……だが言い訳は用意してある。
「えっと……ちょっとお腹が痛くてトイレに籠ってたんだ」
「本当か? それにしては昼休みギリギリまで帰ってこなかったよな。愛奈もずっと帰ってこないし……さては水谷、何かしたのか」
「いやいやいや、何もしてないって。僕はその後に食堂でご飯を済ませただけ。それに、さっき星川が教室に入っていくのを見たよ」
「何?! すぐに行かなくては。お腹冷やさないように気を付けて過ごすんだぞ」
「う、うん。ありがと」
お礼を言い終える前に桐野は教室へ向かっていってしまった。あっぶな……事前に考えてなかったらボロが出ていたかもしれない。ただ、星川の所在が分かったのが大きかったようで、僕への詰問が甘くなったのは非常に助かった。僕より先に戻った彼女は大変かもしれないが、何があっても僕の預かり知る所ではない。
はーっと一回ため息をつきながら、自販機に行き、特段甘いコーヒー牛乳を買う。その後、授業開始のチャイムが鳴り終える頃に席へ着く。
授業開始直後、僕の前に座る星川は後ろ投げで一枚の紙きれを投げ込んできた。
――沙希に息できない程抱きつかれて死にかけた😇

